変人彼女




「おっはよー新開氏!」


ガラリと勢い良く開くドア、彼女しか呼ばない珍しい自分の呼び名に、来ると確信し身を固める。
案の定ドンという衝撃と共に背中から抱きつかれそのままペタペタと体を触られた。



「おはよう、ありす。今日も元気そうだな。」
「あぁ!!そうだ、前からもいいかな?」



どうぞと言えば正面に移動し、先程同様抱きつき体を触る彼女。
朝から抱き合う男女。幸せそうな表情の彼女。
一見恋人のように見えるかもしれないが、そうではない。



「ふぁ〜!新開氏、やっぱりキミはいいよ!ほんっとにイイ体だ!」



彼女の目当てはオレの体である。



「最っ高の骨格だよぉ!パーフェクト!!」



正確にいえば、オレの骨が目当てなのだが…。





――――――






弥生ありす。オレと同じクラスで、少し大人しそうな女子という印象だった。
ただのクラスメイトだったオレたちの関係が今の不思議な関係になったのは二ヶ月前に遡る。






「あの、少しお話したい事があるのですが…」



少し俯き、恥ずかしいそうに言う女に見覚えはあったが話した事はほとんど無い。
また告白の類だろうと思い、とりあえず場所を移そうと言って立ち上がった。



手頃な空き教室を見つけてそこに入ると彼女に向かい合う。



「それで、何だったかな?」
「あ、えっと…その、ですね…」



モジモジと話し辛そうにする目の前の女に少し苛立ちを覚えるも少し待ってやろうと、ジッと黙ったまま彼女の言葉を待った。



「ごめん、時間も無いし手短に頼める?」
「あぁ、ごめんなさい!じゃあ…」



胸の前でぎゅっと拳を握り、意を決したように顔をあげた。
案外強い光を持った目をしていた事に、少し驚く。



「体を、触らして欲しいんです…!」
「え?」
「だ、だから。体、を、触らせて、くれないか、と言ってるんだ…!」
「ごめん、意味が分からないんだけど。」



頬を染めて言われた言葉はあまりにも衝撃な事だった。
大人しそうに見えて、随分と大胆な子だ。
人は見かけによらないものだとしみじみ思った。



「ずっと気になってたんだ!」
「だからっていきなり体っていうのはちょっと、な。」
「そこをなんとか!理想的なんだ、キミのその、骨格が!!」
「えっ、今なんて?骨格?」



そうだ!と言って興奮した様子で話す彼女は凄かった。さっきの大人しそうな様子は見る影もない。



「そう、骨格!人体において核をなすもの、それは骨!最近は骨格の華奢な人が多くてな、骨格好きとしては残念なかぎりだったんだ!
だがしかし、新開氏キミはどうだ。太過ぎず細過ぎない絶妙なバランス、それに見合う密度!素晴らしいじゃないか!!これを理想と言わずなんと言うんだ!!」
「密度って…一体どこで?」
「私は保健委員だからな。測定の際に見たんだ。これを知った時の私の感動といったら…!!胸が震えたよ!」



ぶんぶんと拳を振りながら話す彼女の顔は生き生きしているが、なにしろ言ってる事がマニアック過ぎる。
だが、そのキラキラとした目がとても綺麗だと思った。



「だからさ、確かめさせて欲しいんだ…だめ、か?」
「…わかった、どうぞ?」





――――――






こうしてオレたちの不思議な習慣が始まった。毎朝朝練のあと最初に話したあの空き教室で、彼女の充電という名の骨格チェックに付き合うのだ。

あの時何故彼女のお願いを聞いてしまったのか…今なら分かる。
恋、だ。彼女のキラキラした瞳に、なんの含みも持たない純粋な笑顔に惹かれてしまったのだ。





「ふぅ、ありがとう。」
「もういいのか?」
「あぁ、今日はもう大丈夫だ!」



きっと彼女は純粋にオレの骨格が好きなのであって、恋愛感情は無い。
最初は追いかけられる側だったはずがどうだ、今じゃオレの方が追いかける側になってる。まったく、すごい奴だよ。



「ありす。」
「なんだ?」



振り返る彼女に、ピストルの形にした手を向け、撃つ。



「新開氏?」
「覚悟しとけよ?」



突如言われた宣戦布告にポカンとしている彼女の横をすり抜け教室を出る。
そうだ、意識してもらえていないならさせればいい。















狙った獲物は必ず仕留める。試合でも恋でもそれは変わらない。
















(さぁ、どうやって落そうか)(なんの覚悟だ?)





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