スナップフィルムの轍 今年も残り少なくなり、皆一年の整理に勤しむ休日。 黒豆、田作り、栗きんとん。母にから受け取った正月料理を手にしたわたしは、履き慣れたクロックスを引っ掛けると、意を決して玄関のドアを開け放った。 厚手のカーディガンを羽織っただけという超軽装備で向かうは隣りの家。 母から頼まれたお遣いは、家族ぐるみの付き合いがあるお隣さんへのお裾分けだった。 あっという間に冷え切ってしまった指先でインターフォンを押す。 「弥生でーす!」 『今開けるっショ。』 応答もそこそこに出てきたのはわたしの幼馴染。今でこそ慣れてしまったが、相変わらず不思議な色合いの髪色である。 「ありす…そんな薄着で来んなっショ!」 「えー、だってすぐじゃん。」 「新年初っ端から風邪ひいてもしらねーぞ。」 「裕介お母さんみたいー!」 馬鹿な事言ってねェで入れと頭を軽く叩かれると、通い慣れた家の中へと案内される。 大晦日を間近に控えた休日。家族で大掃除でもしているのかと思いきや、リビングには誰も居なかった。 「おばさんたちは?」 「正月の買い出しに行ってるショ。ありすん家に渡す分は預かってるから、ちょっと待っとけ。」 彼はわたしが持ってきた分を受け取ると、キッチンへ入っていった。 ふとダイニングテーブルの上に分厚い本が積んであるのが目に入る。 アルバムだ。 試しに1番上のものをめくってみるとそこには満面の笑みでピースをするわたしと裕介の写真。多分小学四年生くらいだと思う。 他にも花火をやってる時や、中学の入学式の時に撮ったものなど、今までのわたしと彼の軌跡がそこにはあった。 「煮物と伊達巻きでよかったよな…ってなに勝手に見てるっショ!!」 「アルバムー。あ、見て見て、この裕介めっちゃ可愛い!!」 「っだー!やめるっショ!」 こんなやり取りをしつつ何だかんだ二人でアルバムを見ていると、ふとある事に気づいた。 「…最近、撮ってないよね…。」 「あー…そう言えばそうだな。」 「なんかちょっと、寂しい、かも…。」 中学を卒業した辺りからすっかりと無くなってしまっている写真。仲が悪くなったと言うわけでは決してない。私たちが高校生になり部活等それぞれの時間を過ごす事が増え、写真を撮る機会が減ったのだ。 この写真のように、だんだんこの関係のも薄れて言ってしまうのではないか?そう思うと、ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚を覚えた。 「ったく、そんな泣きそうな顔すんなヨ。」 「だってぇ…」 「写真ぐらい、今から沢山撮ればいいっショ。」 ぐりぐりと頭を撫でながら彼が言う。 同い年のくせに、何かにつけて頭を撫でるのは昔から変わらない。そしてそれだけで安心してしまうわたしも、昔から全く変わっていなかった。 そうだ、カメラを買おう。今年のお年玉の使い道が決まった。 いっぱいいっぱい写真を撮りたいと思う。 どこかに出かけなくたっていい。ただただ、わたしと彼の軌跡を残すのだ。 わたしの大切な幼馴染。 オレの大切な幼馴染。 今はまだ、このままで。 私たちの刻む轍は続く。 (初詣、一緒に行くか?)(行く!!可愛くしてくね)(クハッ!楽しみにしてるっショ)(!!) |