彼についてのエトセトラ | |
まずはひとまず、彼についてまとめてみようと思う。 となりの席の荒北くん 02 今回の席替えでなんと荒北くんの隣りになってしまったわけですが、正直苦手…なんだよ、なぁ…。 「(ま、少なくとも二ヶ月はこの席なんだけど…。)」 教師の口から紡がれる子守唄のような古典文学をバックミュージックに、次々と周りの生徒が脱落していく午後1番の授業。 いつもならここで夢の世界に旅立ってしまうのだが、それどころではない。分厚い教科書を盾に、わたしは隣りの席をチラリと見た。 荒北靖友くん。自転車競技部所属で、朝会で表彰されてるのを何度か見た事がある。 今でこそさらっとした髪をスッキリ短髪にしているが、かつてはリーゼントで、いかにも不良!って感じだったことは今でも強く印象に残っている。 「(か、カツアゲとかされたらどうしよう!)」 でも、女の子にはモテるみたいで、よくクラスの子がキャーキャー言ってるのを聞く。確かにすらっとバランスのとれた体に、整った顔立ち。うんモテるだろうよ! 「(うっわぁ…下睫毛ながっ!!かっこいいって言うか、美人さん?っていうのかな…。)」 ジッと見つめすぎたのか、わたしの行動が不審だったのか、こちらを向いた彼と目が合った。 「…ぁ…(気づかれた!)」 「オイ。」 「!!(どうしよ、怒られる!)」 「チッ、お前当てられてんぞ!」 そう言われ、反射的に前を見る。 不審そうにこちらを見る教師とクラスメイトの姿がそこにはあり、その視線の先が自分である事に気づいた。 「弥生さん?大丈夫ですか?」 「は、はいっ!!」 勢いよく立ち上がったせいで、ガタリと椅子が大きく音を立て、さらに羞恥心が増す。 「では、この問題は分かりますか?」 「…すいません、分かりません…。」 「はぁ、お昼の後で身が入らないのも分かりますが、しっかり聞いていてくださいね。では次…」 うわぁぁあ!!恥ずかしい!! わたし今だったら恥ずかしさで死ねると思う。死因、羞恥死みたいな! ほらほら、みんな笑ってんじゃん! クスクスという声がそこかしこから聞こえる中、わたしは恥ずかしさのあまり顔を上げられないでいた。 少し落ち着いたところで、ふと先程の事について思い出し、相変わらず鋭い目つきは怖かったなどと考える。 「(…でも、わざわざ教えてくれた…悪い人じゃないの、かも…?)」 例え不可抗力であったとしても、親切(かは分からないが)に教えてくれた隣の席の彼を、今度は気付かれないようにみ……た… 「!!(こっち見てるー!!)」 「……」 「(どうしよう、目が逸らせない…!!」 何分だか、何秒だか、もしかしたら一瞬の出来事なのかもしれない。けれども、わたしにはとてつもなく長い時間に感じた。 蛇に睨まれたカエルよろしく、わたしは目を逸らすことができずにいた。 そんなわたしを現実に戻したのは授業の終わりを告げる鐘の音。 ハッと我に帰り、授業が終わっている事を確認すると、わたしは精一杯お礼の言葉を吐き出すと、逃げるように教室を後にした。 (あ、ありがとごじゃいましたぁ!!)(なんだコイツ…変なオンナ…) |