部屋のドアを開けると明らかに人数オーバーだった。ロンがいるだけでなく、フレッドとジョージが僕のベッドに座っているし、ハーマイオニーもロンのベッドの傍に立っているし、ジニーは洋箪笥に寄りかかっていた。

「ハリー朝からどこに消えてたんだよ」ロンが聞いた。
「厨房に行ってた」
「よし、ママは今日の朝食に何を作ってた?」フレッドが嬉々として聞いた。
「厨房にはおばさんはいなかった。シリウスとモニカがいただけ。それで朝から君達、集まって何してるんだい?」
「まさにその話をしていたのよ」ハーマイオニーが答えた。
「その話って?」
「モニカの事よ。それにシリウスとの関係」

ハーマイオニーは目をぐるりと回して呆れた顔をした。

「あのふたり明らかにおかしかったじゃない?昨日の夜あんなふうに抱き合ったのに、シリウス何も話すことなく上の階に行ってしまったのよ」ジニーが言った。
「わたくし達のような経験のある紳士から言わせると」フレッドの言い出し方にロンが鼻で笑った。けれどジニーに「少なくともあなたよりは色々知っているわね」と鼻で笑い返されて、ロンはムッとした。
「あの抱擁は明らかに男と女のそれだった」ジョージがフレッドの先を引き継いだ。「シリウスはモニカを見て戸惑うことなく抱きしめた。あれは情熱がなきゃできない早業だ」
「しかしだ、あれだけきつく抱きしめておいてシリウスはモニカに言葉をかけることなく去ってった。紳士らしい振舞いとは言えない。しかもリーマスが言うには、モニカはシリウスの無実を唯一昔から信じていた女性じゃないか。それなのにまともに会話しないなんておかしくないか?」
「その事を単に知らなかったとか?」フレッドは、答えたロンの事を睨んだ。
「そんなわけないだろ。で、だ。俺達が問題にしてるのは、どうして、シリウスはモニカと話したがらなかったってことだ。お互い愛し合っているのは明らかだったのに」
「今厨房でふたりは話してたよ」僕は言った。「すごく仲が悪そうだった」さっきの様子を思い出しながら付け加えた。
「まさか!痴話喧嘩みたいなもんじゃなく?」

そう言うジョージの言葉にもう一度、さっき厨房で聞いたことを思い出した。「お前は昔からスニベルスの事が大好きだったからな」「そんな言い方しないで」。思い出してぞっとした。

「だって、シリウスはモニカが昔からスネイプの事が大好きだったって言ってた。モニカも否定しなかった」

自分で言って信じられなかった。みんなも信じられない顔をした。ロンにいたってはベッドから立ち上がって叫んだ。

「あいつのどこがいいんだ!脂っこい髪して、ねちっこくて、嫌味なやつで―――」ロンはそれ以上言葉が続かなかった。でもこの部屋にいる誰もがロンの言おうとしていることは分かっていると思った。誰一人スネイプを好きな人はこの部屋にいない事に百ガリオン掛けてもよかった。

「それ本当なの?」ジニーが聞いた。
「ああ、だって僕聞いたもの。モニカは迎えに来たのがスネイプだったからここに来たって言ってた。まるで、迎えに来たのがスネイプじゃなかったらここにも来るつもりがなかったみたいな言い方で」
「じゃあ何か?モニカはシリウスをこの十四年信じた人間で、リーマスを締め殺そうとした人間で、スネイプの事が好きな人間なのか」

フレッドの疑問にみんな唸るだけで答えが出せなかった。

「ひとまず」ハーマイオニーが切り出した。「モニカがどんな人間にせよ、ダンブルドアが呼び戻すくらいだから悪い人ではないはずよ。正直、それには少し議論の余地がある気がするけど。私達が本当に問題にすべきなのは彼女がどんな人間で、今後騎士団に戻るかどうかでしょう。彼女、昨日リーマスに誘われた時『今は決められない』って言ったのよ。それってどういうことかしら」
「その話も厨房でしてた。モニカがそう言ったのは、シリウスと相談したいからだったんだ」
「君、『伸び耳』よりいい耳持ってるよ」ロンが言った。
「ありがと」僕はニヤリと笑った。「それで聞いた感じだと、モニカは騎士団に戻ってもいい感じでシリウスはそれを喜んでなかった」
「どうして?」
「死喰い人と関わってほしくないみたいだった。前回の時もシリウスはモニカがメンバーになるのを反対してたみたい」
「今回はモニカは騎士団に入るの?」
「最後にはシリウスも承諾したけど、すっごく渋々って感じだった」思い出しながら答えた。
「じゃあシリウスはモニカの事は嫌いだけど、死喰い人とかから守りたいのかな?」ロンが言った。
「さあ。分からない」
「それか死喰い人と関わってそっちの味方になってしまう可能性があるから、とか?」ハーマイオニーは宙を見つめてほとんど当てずっぽうに言った。僕はハーマイオニーはまだモニカを信用していないんだと思った。
「そんな人間ならダンブルドアはわざわざ呼び戻さないんじゃないかな」
「うーん」ハーマイオニーが唸った。「ハリー、これまでシリウスやルーピンから彼女の事聞いた事ないの?」
「まったく」
「そう」
「でも、彼女が騎士団のメンバーならいつかは絶対食事するんだし、話も聞けるんじゃないかしら」ジニーが言った。

そうであって欲しいと思った。僕はモニカがスネイプを好きだって言う事を否定する話が聞きたかった。名付け親の無実をずっと信じてくれていた人が、スネイプを好きだなんて、そんな訳あるわけがない。


それを愛とは知らずに


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