「それで、ダンブルドアはどうしてポートマンをここに呼び寄せたんです?」
「モリー、どうぞ私の事はモニカと呼んで」

今までずっと黙っていたモニカがおばさんに向かって呼びかけた。その声は穏やかな調子だった。しかしおばさんはそれが気に入らなかったようだ。

「それじゃあモニカ、お聞きしますがね。どうしてあなたはここにいるのかしら?」
「それは私も知りたいわ」
「モニカなら分かるだろう。ダンブルドアは君をもう一度騎士団に迎えたいと思っている」
「『思っている』?」モニカはリーマスの言葉を繰り返した。「そう言っておきながら、決定事項なんでしょう?ここに来る時セブルスに見せられた住所の書かれた紙、ダンブルドアの文字だったわ。きっとここが騎士団の本部で『忠誠の術』を使って守っているんじゃないかしら。私に断る余地があったら、わざわざ本部を明かすような危険は冒さないはずよ」
「ああ、ここは騎士団の本部だ。シリウスの両親の家で色んな安全対策はされているが、さらにダンブルアが『忠誠の術』で守っている」
「ここ、彼の実家なの?」
「ああ。両親が死んだ後、シリウスが相続して、本部として提供してくれたんだ」
「そうなの…」

リーマスの話を聞いてモニカは何か考えているようだった。いかにもマグルらしい踵の高い靴で歩きながら、ガスランプに照らされた玄関ホールの装飾を見て回った。僕達はみんなそんなモニカを観察した。

「それで、私は断れないのよね」しばらくしてリーマスに向き直ったモニカは言った。
「断るのかい?」
「いいえ、そうじゃないの。でも今は決められない」

どうしてそんな言い方をするんだろうと思った。ヴォルデモートと戦うために昔一度騎士団に入っていたなら、今回断る理由があるだろうか?それに、僕は両親の知り合いなら絶対に入ってくれると思ったし、入ってくれれば両親について何か新しい話が聞けるかもしれないと期待していた。「今は決められない」って言うのはどういうことだろう。

「待ってくださいます?」またしてもおウィーズリーおばさんだった。「この人はあなたの事を締め殺そうとしていたんですよ。それなのに、騎士団のメンバーですって?」棘のある言い方だった。
「モリー、彼女を誘うのはダンブルドアの考えだよ。それに、彼女が私を殺そうとしたには、理由があるんだ」
「私の短すぎる気分のせいよ」リーマスが続きを話す前にモニカが言った。

僕はモニカの言葉は嘘だと思った。確かにあの時のモニカはリーマスを本気で殺そうとしていたように見えたけれど、短気でそうなったとは思えない。それにモニカはリーマスに、シリウスが無罪だと言えば助けると思ってるかとも言っていた。この二人とシリウスの間に何かあるんだと思った。

「いや、いいんだモニカ。君は少なくとも今夜はここに泊まるだろうし、出来れば騎士団のメンバーとして迎え入れたい。みんなが君を頭の狂った女性と思うのはよくない。私としては君が本当はどんな人間かみんなに知ってほしい。その方が誤解がなくて済む」

おばさんは険しい顔をしていた。モニカは胸で腕を組んだまま肩を竦めた。

「みんなも知っての通り、ハリーの両親が殺された次の日シリウスが捕まった」いきなり両親が死んだ話になって、驚いて少し嫌な気持ちになった。「誰もが、シリウスがジェームズ達をヴォルデモートに売り、さらにはピーターを殺したと考えた。ダンブルドアもシリウスが『秘密の守人』だと思っていたしね。実際はそうではなかったが。当時は誰もがシリウスが裏切り者だと信じて疑わなかった、彼女以外は」リーマスはモニカに視線を投げた。「彼女だけはシリウスの無実を確信していた。それでダンブルドアや私を説得しようとした。けれど私達はシリウスの事も彼女の言う事も信じなかった。シリウスはアズカバンに投獄された。彼女にとって、シリウスの無実を信じない僕は許し難い存在だ。僕はシリウスの学生時代からの親友だったからね。彼女が騎士団を抜けて今日まで姿を消したその日、彼女は私を殺す手前までいっていたんだろう。彼女の気持ちがどんなものだったのかは、さっきのでみんなも十分分かっただろう。まあ見方によっては気の短いという言い方もできるが、彼女だけは昔からずっと変わらずに仲間を思っていると言える。彼女ほど人の善悪を見る目があって、仲間を信じる強い心を持つ人間はいない」
「それでもあなたを殺そうとするなんて!ダンブルドアはこの人に何をさせようって言うんですか!」
「モリー、私はあの時シリウスを信じられなかった。彼女が私を殺したいと思うほどの気持ちを抱くのに十分な理由だ」

リーマスの話を聞いて、胸が熱くなった。名付け親のシリウスが魔法界中で誤解され脱獄囚だと思われているのは、僕にはとても辛かった。けれど、モニカは昔からシリウスの無実を信じていた。その事実が僕には嬉しかった。急にモニカの事が好きになった。

「それで、だ。ダンブルドアは彼女のように仲間に忠誠心があって、魔法に長けている人間が仲間にいるべきだと考えた。彼女は一度はメンバーだったから、騎士団での任務がどんなものであるかも分かっているし、ヴォルデモートや死喰い人についての知識もある。ダンブルドアは彼女に、―――もちろん君がもう一度騎士団に入るつもりだっただが」

リーマスは途中でモニカに向き直った。それからダンブルドアがモニカに考えている騎士団での任務を話そうと口を開きかけた。僕もロンもハーマイオニーもフレッドとジョージもジニーもこれからリーマスが言うであろう事を一言も聞き逃すことのないように耳を傾けた。しかしリーマスは続きの言葉を言うのをやめた。

「いや、君はまだ正式にメンバーになると決まったわけではないからやめておこう。夜も遅いし、詳しい話をするのにこの場は相応しくない」リーマスはちらりと僕達を見た。

「そうでしょうとも」ウィーズリーおばさんが固く頷いた。「さあみんな寝るのよ」僕達はおばさんに急き立てられて階段を登るしかなかった。

最後に振り返ると、モニカがリーマスとおじさんに連れられて厨房に下りていく所だった。


僕たちは自身に罰を与えない


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