熱い抱擁は突然始まり、突然に終わった。

二人が抱き合い始めるとロン、ジニー、フレッドとジョージは早々と杖を仕舞い、ハーマイオニーとウィーズリーおじさんもそれからしばらくして杖を下ろした。最後まで杖を構えていたおばさんもリーマスに「大丈夫だ」と言われておずおずと杖を下ろした。それでただ玄関ホールにいる二人を見ていた。しばらくすると、シリウスは前触れもなくパッと彼女を抱きしめるのをやめた。髪をかき上げたかと思うと、素早い動きで踵を返して、こちらに戻って来た。階段の前で詰まっている僕達と向かい合うとシリウスはばつが悪そうにもう一度髪をかき上げた。

「…私はもう寝る」

誰とも視線を合わせないようにしてシリウスはフレッドとジョージの間を押し入って階段を登っていってしまった。僕達はどうするべきか分からなくてただ立ち尽くした。リーマスは床に転がっていた彼女の杖を拾うと彼女に手渡した。

「それじゃあ、本当にシリウスの無実が証明されたのね。二年前こっちの世界で指名手配されていて、何か起きたと思っていたけれど」
「ああ、その時シリウスはアズカバンから脱獄したんだ」
「そんな、脱獄だなんて。どうして?」
「ピーターだ、あいつが裏切り者だった。シリウスに罪を着せ、自分が死んだように偽り生き残っていた。シリウスはあいつの居場所を発見し、脱獄したんだ」
「それで、ピーターはどうなったの?」
「私達はあいつを見つけた。しかし、殺すことも捕まえることもできなかった。またしてもあいつは逃げた。ピーターがいなければシリウスの無実の証明をできない。シリウスは公にはいまだに逃亡中の殺人鬼だ。彼の無実を知っているのは、ここにいる騎士団のメンバーだけだ」

リーマスは階段の下で固まっている僕達を示した。彼女は初めて僕達に視線を向けた。

「騎士団?じゃあ、ヴォルデモートが復活したって言うの」
「ああ」

一瞬彼女の顔に恐怖が浮かんだ。

「そう。こんな若い子ばかりで、どうするつもりなの?」彼女は僕達の方を見ながら疑わしそうに言った。

「騎士団には以前の時のメンバーもいるよ、マッド‐アイとかね。子供達はメンバーではない。メンバーのほとんどは出払っているんだ。今いるのはシリウスと私とこの二人だけだ」そう言うと、リーマスはウィーズリーおじさんを指した。

「こちらは、アーサー・ウィーズリー」
「とてもマグルらしい格好をしているね」おじさんが彼女の向かって微笑んだのに対して、おばさんは眉を吊り上げた。

「それからモリ―・ウィーズリー。見ての通り赤毛の子達は彼らの子供だ。だから彼らはここにいる。上からフレッドとジョージ、ロン、それからジニー」

ウィズ―リー兄弟はリーマスによって紹介されたけれど、父親のように礼儀正しくあるべきか母親のように警戒し続けるべきか判断がつかないようだった。ロンが助けを求めるように横眼で訴えてきたけれど、僕も肩を竦めるしかなかった。

「子供達はみんなホグワーツの学生だ。それでこの二人はロンの友人だ。こちらがハーマイオニー・グレンジャー」紹介された時、ハーマイオニーが下ろした手で杖を強く握り直したのを僕は見逃さなかった。

「それから、この子がハリー・ポッターだ」
「ハリー・ポッター?」また音を区切る言い方を彼女がした。
「ああ、ジェームズとリリーの子だ」
「…あなたが、二人の子供なのね。さっきはごめんなさい、あなたに杖を向ける気はなかったの」彼女は僕を見て言った。

彼女に見つめられるのは変な気分がした。普通、僕を紹介された人の反応は二つしかなかった。僕の額に視線を走らせて傷跡を探すか、僕の両親を知っていると顔と髪を見てその後じっくりと瞳をのぞき込んでくるかだった。リーマスの話す感じで、彼女が両親を知っていると思ったのだけれど、彼女はちらりと僕の事を見ただけだった。

「それで、この人は誰なんでしょうね?夜中に現れたと思えば、ハリーに杖を向けて?」モリーおばさんの声には緊張が残っていた。

「いやモリー、違うんだ。ダンブルドアの命でセブルスが連れて来たんだ。彼女は、モニカ・ポートマン。不死鳥の騎士団創立メンバーで、私やシリウスや、それからハリー、君の両親と同じ学年だった人だ」

目の前の女の人が、父さんと母さんと知り合いだと聞いて、急に胸がきゅっとなった。


何が正しいのかさえわからないまま、随分と遠くまで来てしまった


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