「閉心術」の授業は、マルフォイがモンタギューが見つかったと、スネイプを呼びに来た事で明日に繰り越しになった。スネイプの研究室を出ようとして、僕は足を止めて振り返った。机の上に置かれた「憂いの篩」からスネイプの想いからの灯りを見た。スネイプが僕から隠そうとしたものが気になった。僕は迷いながらも「憂いの篩」に近づいた。スネイプが戻ってくる気配がない事を確かめてから、杖でそれを突いた。そこからは簡単だった。後には引けない所まで気持ちが膨れ上がっていた。僕は息を吸うと、「憂いの篩」に頭をつけてスネイプの想いに入っていった。

暗い闇をくるくると落ちていった。そして僕は大広間に立った。普段の四つの寮生がまとまって座れるような長いテーブルは取り払われていて、小さな一人用の机がたくさん並べられていた。生徒たちがここで試験を受けているらしい。僕はぐるりと辺りを見渡してスネイプを探した。学生だった頃のスネイプの姿を見て僕は少なからず驚いた。スネイプが一心不乱に書いている羊皮紙を後ろから覗きこんだ。どうやら、この試験は「ふくろう」のようだ。

その時、試験の残り時間を告げる声が響いた。僕は思わず飛び上がり振り返った。フリットウィック先生だ。先生はくしゃくしゃな黒髪をした男の子の横を通り過ぎた。父さんだ。僕は駆け足で父さんに近づいた。僕と同じ学年の父さんを見た。僕は自分と父さんとの違いを注目した。目の色、鼻の高さ、額の傷痕。似ている所の方がずっと多かった。

父さんは先生の目を盗んで振り返った。その先にはシリウスがいた。ハンサムだった。シリウスの近くにはリーマスもいた。それから、ピーター・ペティグリューも。僕はさらに周囲を見渡した。前の方に知っている後ろ姿が見えた。僕はその背中に向かっていった。横に立って背中の主を見た。やっぱりモニカだった。すっとした真っ直ぐな姿勢できっとそうだと思った。きちんとした制服の着こなしが彼女らしかった。モニカは書き終えた答案羊皮紙を読み返していた。僕は、羊皮紙の端っこに落書きをしている父さんの所に戻った。その直後、フリットウィック先生の試験終了を告げるキーキー声が響いた。先生は呼び寄せ呪文で答案羊皮紙を集めた。百枚以上の答案が一度に先生の元に飛んでいき、その勢いで先生は後ろにひっくり返った。数人の生徒が笑っている中、何人かは立ち上がって先生を助けた。その中にモニカもいた。

「皆さん、出てよろしい!」

その声とともに、大広間にいた生徒は一斉に立ち上がって玄関ホールの扉に向かっていた。モニカはの姿は生徒の波の中に消えた。僕は後ろを振り返った。スネイプが答案用紙を見ながら、扉に向かっていた。レイブンクローの集団がぺちゃくちゃ試験について話している間をぬって、僕はその後を追った。玄関ホールを出てスネイプと父さん達の間に身を置くと、父さん達が狼人間について話していた。校庭への正面扉の所まで来て、スネイプと父さん達が離れてしまうかもと思った。父さん達は湖の傍のブナの木の傍に場所を決めて腰を下ろしていた。僕は辺りを見渡した。スネイプは後ろの木陰の芝生に座っていた。

後ろの方で賑やかな話声が聞こえた。振り返るとさっき僕が追い越したレイブンクローの男女の集団だった。何となく気取った雰囲気があった。その中にモニカの姿もあった。彼女はその集団に違和感なく溶け込んでいた。その中にいると彼女も少し偉そうな人間に見えた。その集団は校庭に出ると、父さん達の傍を通った。父さんはいまだにスニッチで遊んでいた。巧みに捕まえるたびに歓声を上げるペティグリューをその集団は、まるでうるさい虫を見るように一瞥した。口許には軽蔑の笑いが浮かんでいた。モニカはそんな友人達を急かすと、校庭を横切った。

「それ、しまえよ」シリウスがうんざりしたように言った。

父さんは、ニヤリとしながらスニッチをしまった。スニッチばかり追っていた視線は、遠ざかっていくモニカ達の背中に向いていた。

「あの集団、よくあの態度で学校を歩き回れるな。だからスリザリンの連中に狙われるって言うのに」
「あいつらみたいのは一生変われないんだよ」
「君の親みたいに?」父さんは軽い口調で言った。
「そう言う事だ。ああ言う連中は自分達の態度を考え直すより、死んだ方がマシなんだろ」シリウスは吐き捨てるように言った。
「ミス・ポートマンはなんか、この間マルシベールとスニベルスに呪いを掛けられそうになってたのに」
「自業自得だろう」シリウスは無関心に言って続けた。「退屈だ」

直後、父さんがにやりと笑ってシリウスに言った。

「噂をすれば。あそこにいる奴を見ろよ」

シリウスと一緒になって僕も後ろを振り返った。スネイプが立ち上がって芝生を歩き始めた所だった。その後に起きた事はただただ僕にとって衝撃で、恐ろしく悲しかった。父さんとシリウスはスネイプに呪文を掛けた。母さんが止めに入った。父さんは母さんが好きそうだったけれど、母さんは父さんの事が大嫌いのようだった。母さんはスネイプを庇っていた。しかし、スネイプは母さんを「穢れた血」と呼んだ。それは決定的な一言だった。母さんは、スネイプを見限り、父さんにも激しい言葉を放って消えていった。父さんはまたスネイプを逆さ吊りにした。その後どうなったかは分からない。二の腕を掴まれて引き上げられた最後の瞬間、モニカのいるレイブンクローの集団が、スネイプや父さん達や見物している生徒達も含めてその人だかり全体に遠くから馬鹿にしたような視線を送っているのが見えた。


青い世界が見えるかい?


back next