クリスマスの朝、起きるとベッドの下にプレゼントがたくさん置かれていた。プレゼントを開ける作業に掛かった。ドビーから送られた絵を逆さまにした時、フレッドとジョージが『姿現わし』で寝室に現れた。

「メリー・クリスマス。しばらくは下に行くなよ」
「どうして?」ロンが聞いた。
「厨房でママが泣いてる」

フレッドとジョージが話すには、パーシーがウィーズリーおばさんの編んだセーターを送り返したらしかった。二人はパーシーをけなしておばさんを励まそうとしたけれど、それは効かなかったらしい。

「それでルーピンと選手交代だ」ジョージが言った。
「僕達、パーシーに対する悪口ならいくらでも言えるんだけどな」フレッドが続けた。
「ママの事はルーピンに慰めてもらって、シリウスとモニカが踊場でやってる言い合いを終わらせたら、朝食に下りて行った方がいいだろうな」
「また喧嘩してるの?」ロンが呻いた。
「シリウスはモニカにどうしても今日ここにいて欲しくないらしい」フレッドが答えた。
「今日はクリスマスだっていうのに、モニカを追い出そうって言うのかよ!」

ロンは叫びながら、モニカから送られて来た『キーパーこそ、チームのキーパーソン』と言うタイトルのクディッチのキーパーの役割や技についての本を抱えた。ロンはそれを、フレッドとジョージが現れるまで夢中で読んでいた。

「ああ、何たってシリウス曰く、『クリスマスは家族で過ごすものだ!』だからな」フレッドが言った。
「あの剣幕はすごかった」ジョージが続けた。
「モニカは『あなたは十六の時に家族から離れたくせに、よくそんな事言えるわね』って」
「で、シリウスは『今の私には、ハリーがいる!』。『ああ、そうなの』ってモニカがいつも通り呆れて、シリウスは彼女にああだこうだ言うわけだよ」

時間を置いて朝食を食べに下りると、ウィーズリーおばさんがひとり厨房にいた。午前中はゆったりと貰ったプレゼントで楽しむ事に時間を費やした。お昼を少し過ぎた後、クリスマスの料理を食べた。シリウスの隣にはモニカが座っていた。結局モニカがここでクリスマスを過ごす事を了承したんだと思った。モニカが「持ち主の好きな曲しか流さない」と説明した魔法の蓄音機から流れるクリスマス・ソングを聞きながら食事をした。どれも、シリウスがずっと歌ってきた曲ばかりだった。それからマンダンガスの運転する車で、ウィーズリーおじさんのお見舞いに行った。モニカも僕達と一緒に屋敷を出たけれど、別の用事があるらしくて『姿くらまし』してどこかに行ってしまった。

ウィーズリーおじさんのお見舞いから帰った僕達の気持ちは暗くなっていた。ネビルの両親に会ったからだった。僕はネビルの両親を拷問したのがベラトリックス・ストレンジ達である事は知っていた。けれど、こうしてネビルの両親に会うとは思っていなかった。彼らがどんな姿か考えた事もなかった。突然、僕の思っているよりもすぐ近くに闇は迫っているような気がした。ヴォルデモートは僕の両親を殺したし、あいつ下僕である死喰い人達は、ネビルの両親をあんな状態になるまで苦しめた。騎士団のメンバーは、いつあいつらに殺されれもおかしくない。ロンやハーマイオニーだってもしかしたら、拷問に掛けられるかもしれない。

聖マンゴから帰って来た後、ロンとハーマイオニーと魔法のチェスをしていたけれど、途中で僕は寝室を抜け出した。頭からネビルの両親の事が頭から離れなかった。しんとしている客間に座った。客間の冷え切った空気がむしろ頭を冷やしてくれる気がした。

「あら、ハリー。一人で何してるの?」

扉からぐるぐるにマフラー巻いた姿のモニカが姿を覗かせた。用事から帰って来たばからりらしい彼女は客間に入ってくると、僕の隣にそっと座った。

「ちょっと考え事がしたくて」
「ジニーから聞いたわ。ロングボトム夫妻に会ったんでしょう?」
「うん…」
「酷い話よね」

そう言うモニカと目が合った時、僕はまね妖怪が彼女の前に現れた時ベラトリックス・レストレンジの姿に変わった事を思い出した。

「モニカはレストレンジについて何か知ってる?」聞いてすぐに後悔した。モニカはレストレンジの名前を聞くと眉を顰めたからだ。僕は慌てて言い訳をした。「もし、話したくないならいいんだ。でもあの、ほら―――夏休みの最後の日、まね妖怪の姿があいつになったからもしかしたら知っているかなって…」
「ベラトリックス・レストレンジは、熱心な純血主義者で、忠実なヴォルデモートの下僕よ。ヴォルデモートが消えた後の事を私は直接には知らないけれど、レストレンジや他の死喰い人がどれだけ必死に忠誠を誓った主人を探し求めていたかは容易に想像できるわ。フランクとアリスに正気を失うほどの呪いを掛けたその気持ちも分かる。それぐらい彼らはヴォルデモートを盲信していたのよ」

まるでネビルの両親をあんな姿にしたレストレンジ達を庇うような言い方に聞こえた。

「なんでレストレンジ達をそんな風に言えるの?」
「だって、あの人達はあの人達がすべき事をしただけなのよ、彼らの価値観に従って」
「じゃあ、何でモニカのまね妖怪はレストレンジの姿になったの?」つっけんどに聞いた。
「それはね、ハリー」

モニカはそこで言葉を切った。小さく息を吐いた後、モニカは僕を見た。

「昔ね、レストレンジ達に拷問された事があるからよ」

モニカは笑顔を作って言った。僕は返す言葉が思い浮かばなかった。


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