クリスマス・イブにはシリウスの指揮のもとで、クリスマスの飾りつけが最終段階に入っていた。この数日で僕達は相当な量の魔法のきらきら光る雪を杖から作り出していた。客間にはマンダンガスがどこからか手に入れた巨大なクリスマスツリーが置かれた。あまりにも大きいので、魔法で縮めないと玄関のドアを通らないくらいだった。その後、客間でもう一度大きくした。普通のオーナメントの代わりに色とりどりの妖精を飾りつける作業に取り掛かっていた。

「シリウスがモニカに、明日は本当にここにいるのかって怒鳴っていたぞ」フレッドが一階から妖精の入ったバスケットを持って客間に戻って来て僕達に言った。

「また?」ジニーがうんざりしたように言った。

シリウスとモニカの口論は相変わらず続いていた。ここ数日は夏休みから続いていた食後のジニーとモニカのボードゲーム対決が、シリウスがモニカを厨房の隅に連れて行って話し込む事によって度々中断されているので、ジニーはシリウスがモニカと口論する事に対して怒っていた。

「シリウスはモニカに明日ここにいて欲しくないって?」ロンが聞いた。「明日はクリスマスじゃないか!」
「そうだ、ロニー坊や。だから僕達は頭を悩ましているんじゃないか」フレッドが答えた。
「結局ここに戻るんだ、弟よ。シリウスはモニカを愛しているか否か。モニカはシリウスを愛しているか否か、だ」ジョージが続けた。

僕は、夏休みの終わりに九と四分の三番線でモニカと話した内容も、僕の中にある一つの考えをフレッドにもジョージにも言っていないし、ロンとハーマイオニーにも打ち明けていなかった。何だか僕の口から言っていい事なのか判断がつかなかった。

僕はその話し合いには参加せずに、妖精を飾る事に夢中になっているフリをした。実際そのフリをするのは難しくなかった。妖精は油断しているとすぐバスケットから飛んで逃げようとするし、指で捕まえようとすると噛みついてくるので一匹ずつ丁寧に失神呪文を掛けなきゃいけなかった。

ウィーズリーおばさんに呼ばれて昼食を食べに厨房に下りると、そこにはテーブルの隅で羽根ペンを動かしているシリウスとおばさんの手伝いをしているモニカがいた。シリウスは宙を見て考えてはカリカリと書き込んでいた。

「シリウス、何書いているの?」

隣に座りながら声を掛けると、初めて僕に気が付いたみたいだった。驚きで目を見開いて僕を見た。それから「大したものじゃないんだ」と言って笑った。けれど、シリウスはさっと書いていた羊皮紙を手で隠した。指の隙間から、いくつか見えたのは、「エドワード」とか「アリス」とかちょっと古いなって思う名前だった。僕に見えてしまった事に気が付いて、ごまかすようにもう一度笑うと羊皮紙をポケットにしまった。

「ああこれは、―――ハリー、今はまだ話せない。時期が来たら君に話すつもりだが、まだダメなんだ」シリウスはとても歯切れが悪かった。
「うん、分かった」

そうは答えたものの、僕はあのメモがどう言う意味なのかちっとも分からなかった。もしかしたら、まだ僕の知らない騎士団のメンバーの名前なのか、それか死喰い人の名前なのかもしれない。

昼食の後は、二階の廊下に飾られている歴代の屋敷しもべ妖精の首の剥製をサンタクロースに見立てる作業に移った。フレッドとジョージがしもべ妖精に付ける白いひげに掛けた魔法が失敗して、ぐんぐん伸びて床に届く位の長さになってしまった。ハーマイオニーが一つ一つの魔法を解いて、長さを整えていた。

「―――あなた最近、面倒くさいわ」

上の階からモニカの声が聞こえた。モニカの言う「あなた」が誰を指すのは明らかだった。ロンとハーマイオニーはまた始まったという顔をして、ジニーはウィーズリーおばさんそっくりに口をきゅっとした。フレッドとジョージは耳を澄ませていた。しかし、耳を澄ませる必要もすぐになくなった。

「やはりやめた方がいい」
「何度も話して決めたのに、どうして掘り返すの」
「私はただ、もう少し考えた方がいいと思ったんだ」

階段を駆け下りて来る音に合わせて二人の声が近づいていた。

「だって、言い出したのはあなたの方よ」
「それはそうだが…」
「怖気づいたのなら、そう言えばいいでしょう」
「そんな訳ないだろう!」

モニカはまた悪意のある言い方をしたなと僕は思った。モニカとシリウスは階段を下りて僕達が二階にいる事気が付くと足と言い合いをやめた。

「やあ、何でもないんだ」シリウスは苦し紛れの言い訳を僕達にした。
「何でもないの?だったらこの話はこれで終わりよ」

モニカはシリウスにそう言うとまた歩みを進めた。するとシリウスは「まだ終わってない」と吠えてモニカを追いかけた。モニカはいつものように落ち着きを払っていたけれど、シリウスから逃げて階段を下りるその横顔に悪戯っぽい笑みを浮かべるのを見た。

「あの二人何の話をしてたんだ?」ロンが首をひねった。
「さあ」

誰も分からないに違いない。


手を伸ばしてみたけれど


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