僕達はクリスマスの飾りつけに時間を費やした。シリウスは、夏休みと違ってハツラツとしていて誰よりも働いていた。僕達も楽しんでいる。夏の時はひたすら住み着いた妖精やこびり付いた黴を落とすばかりでつまらなかったけれど、今は違う。夏に取り切らなかった汚れを落としてその上にふわふわだったりきらきらだったりするものを飾り付けていくのは、比べものにならないくらい楽しい。シリウスはクリスマスの飾りつけをしている時ずっと歌を歌っていた。

「シリウス、ずっと歌ってばかりね」ハーマイオニーが柊のリースを杖で浮かせながらいった。
「だってクリスマスだぜ?」ロンが言った。
「シリウスが歌ってるのってマグルの曲が多いわ、ほら」ハーマイオニーが一度言葉を止めて耳を澄ませた。「今歌ってるのもそう。五年くらい前に流行った曲よ。ハリーも知ってるでしょ?」
「そうなの?」

僕はダーズリー家でまともなクリスマスを過ごした事がなかったし、ホグワーツに入学してからはマグルのクリスマスとは縁がなかった。

「あなた、聞いたことない?まあいいわ。五年前って言えば、シリウスはまだアズカバンにいたじゃない?」
「どうしてそんな事気にするんだ?」ロンが言った。
「別に、ちょっと不思議に思えて」ハーマイオニーがリースを目標の場所に掛けながら答えた。

シリウスはモニカとちょっとした口論を続けていた。それによって、不機嫌だったり上機嫌だったりしたけれど、いつもみんなと一緒に厨房で食べていた。不機嫌な時でも、夏休みのようにモニカと距離を置いたりはしていなかった。

夕食のデザートまでほとんど食べ終えた。僕は暖炉の火の暖かさと満腹感でゆったりとしていた。近くでモニカとハーマイオニーが話をしている。進路の事らしい。

「ご両親は何をしているの?」
「歯医者よ」
「そう。じゃあご両親はあなたの進路の事に何て言っている?同じように歯科医師になってほしいとか、卒業後はマグルの世界に戻って来てほしいとか」
「いいえ。ふたりは私がきちんと考えて、価値があると思うなら何でもしていいって」
「素敵なご両親ね」モニカはにっこりした。
「モニカは周りに反対されたから闇祓いにならなかったって言ったけど、それってご両親の事?」
「両親だけじゃないけれど、彼らも反対していたわ」
「やっぱり危険が伴うから?」
「と言うか、私が魔女である事が不愉快だったんでしょうね」モニカは軽い口調で言った。
「そんな!どうして、魔女だってマグルだってみんな同じなのに」ハーマイオニーが驚いたように高い声を出した。
「ハーマイオニーがそう言ってくれるのは嬉しいだけど、うちの両親は少し頭が固い人達だから。初めてホグワーツから手紙が来た時は大変だったわ。絶対に行かせるものかって。でも、その頃私の周りで不思議な事がたびたび起きていて」モニカは楽しそうに言った。

モニカはどんな不思議な事が起こったのかは詳しく話さなかったけれど、僕はその不思議な事について身に覚えがあったのであれこれ想像した。僕の場合は、切っても切っても髪が伸びたり、無理やり着せられそうになったセーターが縮んだり、いつの間にか学校の屋根に上っていたり、蛇がいた動物園のガラスが消えたりした。

「両親は最後には、ホグワーツがそう言う類の制御の方法を教えてくれると期待して入学を許したの。私に幸せに生きて欲しかったのよ」
「それじゃあまるで魔女である事が不幸みたいじゃない?ご両親はそう思っていたの?」ハーマイオニーは眉を顰めながら聞いた。
「『思っている』よ。今でもそうなの」
「でも、それって間違っているわ!」
「実の所、間違っているとは言い切れないわ。これって単なる考え方の違いなのよ。私の両親には、彼らなりの価値観があるのよ」

モニカの言っている事が分かりづらくて、僕の食後の満足感でぼうっとした頭では、彼女の言った言葉の意味を考えられなかった。

「…じゃあ、結局モニカは進路を決める時どうしたの?」
「とても悩んだわ。両親は私がマグルの大学に行ってその後は結婚をさせたかったの。でも、私ホグワーツではそれなりに成績が良かったから、魔法界でもいくつか選択できる仕事はあったのよ。そのうちに一つが闇祓いね。それで、さっき言ったように両親は反対したの。私は彼らが私の幸せを考えてくれていたのは分かっていたから、ほとんどホグワーツを卒業したらマグルの生活に戻る気でいたわ。でも、分かったのよ。私の将来や幸せを決めるのは私自身だって。私の信念は私だけのものだって。その為のリスクは覚悟しなきゃいけないって」
「それで騎士団に?」
「そう言う事。まあ、両親を納得させる為にマグルの仕事も少しはしたけどね」
「じゃあ、どうして医師になったの?」
「そう言う約束だったからよ。両親が納得するような仕事をマグルの世界ですると言うね」そこで一瞬言葉を切ってからモニカは続けた。「だからハーマイオニー、私があなたに言える事があるとすれば、どんなに困難でもあなたが心からそれが正しいと思うなら、やるべきだと言う事ね。幸いあなたは賢い魔女だから、リスクについて考え備える事ができるわけだし」

モニカの言葉は僕の耳に通って脳みそにぼわっと広がり消えていった。ハーマイオニーがモニカの言葉にどう答えたか聞こえなかった。ロンに小突かれて意識がはっきりした時には、ふたりは別の話をしていた。


君の好きな歌を口ずさむ


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