とうとう夏休み最終日が来た。パーティーは盛り上がっていた。料理はどれも美味しかった。パーティーにはモニカもいたけれど、シリウスも参加してくれた。もちろんふたりは一緒に話すことなんてなかったけれど、こうして最後の日にシリウスも一緒に夕食を食べられるのが嬉しかった。それに、僕の父さんが監督生じゃないと聞いて一気に気分が向上していた。

しかし、それも長続きしなかった。マッド‐アイが騎士団のメンバーと写る両親の写真を見せてきたからだった。ショックだった。心臓がぎゅっしてした。厨房を出る時モニカに話掛けられたけれど、何も返せないまま階段を上がった。泣き声が聞こえた。客間に入ると、ロンの死体を見てウィーズリーおばさんが泣いていた。おばさんは必死で呪文を唱えてると、死体は変わっていった。

「ハリー、どうしたの?何かあった?」

下からモニカの声がした。ロンがビル、ビルがウィーズリーおじさん、おじさんが双子、双子がパーシー。パーシの死体に変わった時、モニカは客間に駆け込んで来た。おばさんがもう一度呪文を唱えると、死体は僕のに変わった。モニカは泣くおばさんの背中をさすりながら客間から連れ出そうとしていた。僕は自分の死体を見ながら叫んだ。すぐにリーマスが現れた。

「リーマス、何か温かい飲み物をモリーに」
「ああ、分かった」

飛び出したリーマスとすれ違いにシリウスとマッド‐アイが現れた。ふたりとも僕の死体を見ていた。モニカは僕の死体に杖を向けた。すると、僕の死体は姿を変えた。

始めそれが誰か分からなかった。細かな装飾のある服を着ている老いた女の人だと思った。だけど、よく見るとそれはシリウスの母親だった。玄関ホールにある肖像画よりも少し若くてしっかりとした佇まいだった。

「リディクラス」モニカはほとんどつまらなそうに呪文を唱えた。

すると今度は背の高い黒髪の女が立っていた。ベラトリックス・レストレンジだとすぐに分かった。ダンブルドアの「憂いの篩」で見た通りの姿だった。モニカはレストレンジの姿を見つめていた。その横顔からは何も分からない。

リーマスがマグカップを持って客間に戻って来た。それをおばさんに全部飲むように言って握らせるとリーマスは杖を抜いた。

「リディクラス!」

まね妖怪は一度月色の球体に変わった後、煙になって空気の中に消えた。ウィーズリーおばさんは激しく泣いていた。

「―――知られたくないの……バカな事考えてるなんて……」
「私達は今晩ここで起きた事を他の誰かに言ったりしないわ。それに、バカな事なんて思わない。私達はみんな何かを恐れている。恐れている事があるから、私達は防衛する。失いたくない人がいるから、守ろうとする。守りたいものがあるから強くいようと思えるの。何も恐れていない人間こそ一番愚かで弱いのよ」

モニカは静かに言った。その言葉を聞いておばさんいくらか落ち着いたけれど、それでも涙を零していた。そんなおばさんをリーマスとシリウスが慰めた。おばさんは落ち着くとマグカップに口を付けた。リーマスはおばさんが部屋に戻るのに付き添って出て行った。

「ベラトリックスの奴は今アズカバンにいる。あやつが再び出てくる事はあり得ん」

出し抜けにマッド‐アイが言った。

「そうね、ムーディ」モニカは微笑んで言った。

けれど僕には無理して笑っているように見えた。ムーディは励ますようにモニカの肩を叩いた。

「でもね、やっぱり忘れられないのよ」
「…母は死んで、あの魔女もアズカバンにいると分かっていてもか?」モニカに向かってシリウスが口を開いた。
「そうよ」
「やはりお前は騎士団に戻るべきじゃなかった」
「いつまでも隠れて暮らせと?」
「隠れろとは言ってない。ただマグルとして生きればいいと」
「私はむしろ戻って来てよかったと思ってるわ。いつかレストレンジが出てきた時、いち早く知ることができるもの」
「アズカバンから出て来られる訳ない」
「あなたもクラウチの息子もできたのに、レストレンジにできないと言い切れないわ」

シリウスは目を伏せた。モニカはレストレンジを恐れているようだった。

「そうか…」シリウスは呟いた。「もう十年以上も前の事だから、忘れてもいい頃だと思っていたが」
「忘れたいわ。でも今でもずっと残っているんだもの」モニカは左腕を洋服の上から撫でた。
「それほど怖いなら―――」
「怖いからこそ私はここにいるの。恐怖で怯えるだけなのは嫌なのよ」

モニカは決然としていた。でもシリウスの母親とレストレンジを見てから彼女の声は僅かに震えていた。

「ポッター」

マッド‐アイがモニカから手を離して僕を呼んだ。頭を傾ける仕草でここから出ろと言っていた。僕達はふたり、客室を後にした。最後にちらりと見た時シリウスはモニカに歩み寄っていた。モニカの腕をまるで壊れ物のように慎重に手に取る所だった。

もうやめにしようよ


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