「モニカが言っていた迎えに来るって約束したのって、やっぱりスネイプなのかな」

夕食の後、ロンとハーマイオニーと三人で部屋に戻った。ロンがベッドに胡坐をかきながら言った。

そうではあってほしくなかった。けれど、それはほとんど否定できなくなっていた。タペストリーの前で話した時モニカは学生時代、両親と知り合いじゃなかったばかりか、シリウスと友人じゃなかったと言っていた。

「聞いた感じだとそうね」
「それじゃあ、シリウスの片思いじゃないか?!」
「でもモニカはスネイプが好きなようだし、もし約束した相手が本当にスネイプだったら仕方ないわ」
「でも、想像できるかい?あの脂頭がモニカにそんな約束するのって?」ロンは独り言のように続けた。「僕だったらあんな奴に迎えに来られるだけはごめんだ。あいつが来ないで済むなら、魔法薬学のレポートいくらでも書くよ」
「あなた今まで一枚だって、自力で書き終えた事ないじゃない」ハーマイオニーがクルックシャンクスを撫でながらロンに言った。
「でも、さっきホールでシリウス達がどんな話をしていたかは予想がついたわ」

ハーマイオニーの得意げな言い方に僕もロンも顔を見合わせて首をひねった。

「分からない?エイブリーよ」
「エイブリーってさっきモニカが会ったって言ってたエイブリー?」ロンが聞いた。
「エイブリーは死喰い人だ」ヴォルデモートが復活した時にいたあいつの姿を思い出した。
「そうよ。それと、シリウスが去年ホグズミードに戻って来た時に言ってた話覚えてる?」

そこでピンと来た。

「エイブリーは学生時代、スネイプと同じグループに入ってた」
「そう。それでさっきシリウスが言ってたでしょう?二週間もしないうちにエイブリーに会った事がどんな事か分かってるのかって。シリウスはこう考えたんだわ。スネイプがエイブリーにモニカが騎士団に戻った事を教えたって。それを会議の後に問い詰めていたのよ、きっと」
「でも、スネイプがどうして死喰い人にそんな事漏らすんだ?」
「それよ。おかしいでしょ?私思ったんだけど、シリウスはここに留まりっぱなしの苛立ちで物事がよく見えていないのよ」
「じゃあ君が言いたいのは、つまりスネイプがエイブリーにモニカの存在をばらしたって言うのはシリウスの妄想で、スネイプは約束を果たして、モニカはスネイプにゾッコンで、シリウスは独りぼっちって事かい?」
「そういう事ね」
「君は、シリウスとスネイプ、どっちの味方なんだ!」ロンが怒った。
「どっちの味方とかじゃないわ」
「だってそう言うことだろう?モニカがスネイプのやつを好きなのを認めてるじゃないか」
「だって誰かを好きになるのって理屈じゃないもの」

ハーマイオニーはまるでそれで全てが説明されるかのように言い切った。僕もロンもそれでは納得していない。スネイプの事を好きなんて、僕が吸魂鬼と肩を組んでロンがペットにクモを飼うくらい考えられない事だった。

シリウスはあれ以来モニカと食事を一緒に取る事すら避けるようになった。それに僕がホグワーツに帰る日が目前に迫っている事もあって僕達は一日中屋敷にいるのにも関わらずシリウスの姿を見なくなった。代わりに、除染をしている僕達の所にクリーチャーがやって来てはブツブツとあれこれ言ってくるようになった。

「穢れた血が我が物顔で奥様の屋敷を歩き回る…。ガキ共があらゆる所に手垢を付ける。クリーチャーはそれを許してはいけない。奥様はそんな事を断じてお喜びにはならない。クリーチャーはどうすればいいのだろう」
「穢れた血って呼ぶなって言ってるだろう!」ロンが持っていた雑巾を握りしめながら怒った。

最近は現在の主人であるシリウスの目が光ってない事もあってか、クリーチャーは日に日にハーマイオニーに対する中傷が増えていた。

「ロン、そんな言い方しないで!クリーチャーは長くこの屋敷にいたせいで自分の言っている事がよく分かっていないのよ。ねえ、そうでしょう」
「穢れた血がクリーチャーに話しかけている。奥様はクリーチャーが穢れた血と話すのがお嫌いだ」
「クリーチャー、用が済んだらとっとと出て行け」
「クリーチャーはお屋敷のお掃除をしているだけです」クリーチャーは恭しく言った。「クリーチャーは見張らなければいけない。これ以上奥様のお屋敷をガキ共が荒らすのを許してはいけない」
「クリーチャー、私達はお屋敷を荒らしているんじゃないのよ。綺麗にしているの」ハーマイオニーが屈んでクリーチャーの目を覗きながら言った。

クリーチャーは目を瞬時に閉じて別の方を向いた。

「穢れた血と目が合った。そんな事を奥様が知ったら、何と仰るだろうか。クリーチャーは穢れた血と話してはいけない。目を合わせてはいけない。汚らわしい小娘。何かを企んでいる。奥様が大切にしてきたものを汚すつもりだ」

ロンはクリーチャーに飛びかかる寸前だった。顔が真っ赤になって、ポケットに入れた杖に手が伸びたのをハーマイオニーが慌てて止めたくらいだった。

「何しているの?」扉の外からモニカが首だけ伸ばして僕らの様子を見て言った。

クリーチャーはずっと「穢れた血とは話していけない。目を合わせてはいけない。奥様の大切なものを汚す気だ」と繰り返していた。それを聞いたモニカは穏やかな口調で「クリーチャー」と呼んだ。しかしクリーチャーはそれを無視した。モニカは部屋に入って来てハーマイオニーと同じようにクリーチャーの目線まで膝を折った。クリーチャーは慌てて首を回して視線を逸らした。モニカも首を伸ばしてクリーチャーと視線を合うように追いかけた。クリーチャーはぎょっとして後ずさった。執拗に追いかけてモニカはクリーチャーは部屋から追い出した。

「穢れた血め。血を汚す者」クリーチャーが最後に吐いた。
「さあ、これでいくらか掃除しやすいでしょう?」僕達を振り返ったモニカはにっこりして言った。


これが普通なのだとパパが言ってた


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