フレッドとジョージが決闘で連敗するようになってからモニカは騎士団の任務で出掛けることが多くなった。夕食までに帰ってこないこともあった。シリウスはその間も母親の部屋に籠ることに務めていた。

夏休みが後数日になったある日、騎士団の会議はいつにもまして長引いていた。

「何かあったのかな?」ロンが階段から下を覗きながら言った。
「どうだろう」

それからさらに数十分が経った時、厨房の扉が開いて相手騎士団のメンバーが出てきた。その中に大っ嫌いな黒髪が見えた。スネイプはモニカと話をしていた。後から出てきたシリウスが、ふたりの間に入りスネイプに向かって何かを言っていた。指を突き立てたシリウスにスネイプがほとんど口を動かさないで何かを言った。シリウスはスネイプを最後にひと睨みすると厨房に戻ってしまった。スネイプや他のメンバーが出て行った後、夕食が始まった。

夕食はいつも通りだった。シリウスはモニカから一番遠い席に座っていた。テーブルの上からほとんどの料理が消えた時にはもう夜も遅い時間になっていた。ジニーが寝に上に行き、フレッドとジョージは僕達だけにこっそりと「試作品を試さなきゃ」と言って自分たちの部屋に戻って行った。僕とロンとハーマイオニーは、ゆったりとデザートを食べていた。

「私は明日そのまま夜勤だから、もう寝るよ」そう言ったのはウィーズリーおじさんだった。

みんながそれぞれにおやすみなさいと声を掛けた。

「私も夜勤ができたらよかったんだけど」おじさんが厨房からいなくなった後、モニカがリーマスに言った。
「仕方ないさ。君には君に任された事がある」
「分かっているわ。それに今日の任務で、エイブリーと再会するって言う嬉しい驚きも合った訳だし」

エイブリーの名前は聞き覚えがあった。ヴォルデモートが復活した時にいた死喰い人の一人だ。モニカの言葉はシリウスにも聞こえているようだった。ゆったりと腰掛けて後ろの二本足だけで座っていた椅子をもとに戻した。その音があまりにも大きすぎて、厨房にいた全員がシリウスを見た。

「…嬉しい驚きだと?」シリウスはモニカに向かってほとんど吠えるように言った。
「騎士団に戻って二週間もしないうちに、お前がエイブリーに会った事がどういう事が分かっているのか?」
「もちろんよ。死喰い人が私が生きている事を知ってしまったって言いたいんでしょう」

モニカはスチームド・プディングを食べながら言った。その答えにシリウスは握っていたフォークを荒っぽい動作でテーブルに置いた。それにモニカは片眉を僅かに上げた。

「死喰い人がお前の事をどれだけ狙っていると思ってるんだ?今はまだ奴らがなりを潜めているからいいが、一度活動が始まったら真っ先にお前を殺そうとするだろうな」
「彼らは彼らのすべき事をして、私は私のすべき事をするだけよ」
「それで死んだらどうする!」
「素敵なお墓に入ればいいんじゃないかしら」

彼女の冗談とも本気とも聞こえる言い方に、シリウスの表情が一層険しくなった。みんなふたりのやり取りに注目していた。シリウスはそんな僕達の事が全く視界に入っていないようだった。モニカだけを真っ直ぐに睨んでいた。

「お前はずっとマグルの世界で暮らしていれば良かったんだ」
「どうしてそんな事言うの?」
「お前はその方がずっと安全で幸せだった」
「安全な生活が幸せだとは限らないわ」
「いや、お前にはマグルの生活がお似合いだ!」そう言ったシリウスの言葉には明らかに棘があった。「十四年もそうだったのなら、そのまま続けていれば良かったんだ!」
「じゃあ、あなたはこの十四年間何をしていたの?聞くまでもないわね、そのほとんどの間アズカバンにいたんだから」

シリウスの声が大きくなるほど、モニカの声はより落ち着いたものになっていた。モニカの言葉にシリウスは椅子から立ち上がっていた。

「私は無実だった!」
「知ってるわよ、十四年前から。それで、脱獄した後は何をしていたの?」
「ピーターを追っていた!ハリーを守っていた!」
「それってとても計画的で安全な選択ね」誰にでも分かる皮肉だった。
「お前は分かってない。私がどんな気持ちでいたか」シリウスは歯を食いしばりながら言った。
「あなただって私がどんな気持ちだったか分かってないじゃない」
「お前がどんな気持ちだったかなんて知りようがない!」
「だったら教えてあげる。私はね、ずっと辛かった。迎えに来るって約束をした人が現れるのをずっと待っていた。彼の事を思い続けて、待ち続けて、毎日が辛かったわ」

彼女の言い終わると、部屋はしんとなった。シリウスはその言葉に打ちのめされたようだった。どさっと椅子に座ると、髪の間に指を入れて頭を抱えた。モニカはそんなシリウスを見た後、ウィーズリーおばさんに「美味しい食事ありがとう」と何事もなかったかのように微笑んだ。おばさんは黙ったまま頷くことしかしなかった。僕達は今交わされた会話に驚いていた。モニカはそんな僕達におやすみを言うと厨房から出て行った。


何かも許せるような世界で


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