相変わらず僕達は屋敷の除染ばかりやっていて、騎士団のメンバーがどんなことをしているのか分からないままだった。幾つか変化があったのは、シリウスが今まで以上にバックビークと過ごすようになったことと、モニカが僕達と時間を過ごすようになったことくらいだった。けれど、この変化は無視できなかった。

「彼女、最高だぜ」

モニカがここに住むようになった次の日の夕方、フレッドが言った。

「僕達さっき彼女と決闘したんだけど、十年以上マグルとして暮らしてたとは思えない腕だった」
「僕達の方が強かったがね」ジョージが続けた。
「なんてったって相手は貴婦人。こっちは勇猛果敢なグリフィンドールの最高学年」
「じゃあ君達が勝ったの?」
「いいや、攻撃は僕達が優勢だったんだけど、ちょっとした隙に宙づりにされて歴代の屋敷しもべ妖精とキスさせられそうになった」
「じゃあ、文字通り足を掬われたのね。女性相手に」ハーマイオニーが言った。
「そうだがね、お嬢さん。僕達はその事でくよくよしていないさ」フレッドがハーマイオニーの肩に腕を回した。
「モニカは『悪戯専門店』の製品製造の協力者になったからな」ジョージが言った。
「協力者?」
「僕達が開発に行き詰ってるいくつか悪戯グッズに、彼女がちょっとしたアドバイスをくれるんだよ」

ハーマイオニーは険しい顔をした。フレッドとジョージは声を揃えて言った。

「言っただろ?彼女は最高だって」

ふたりの言葉は嘘ではなかった。モニカは誰とも上手くやっていた。ロンとはクディッチの話で盛り上がっていたし、ハーマイオニーとは彼女が持っている本を読んで一緒に議論をしていたし、ジニーとは夕食後魔法を掛けたマグルのボードゲームでよく対戦していた。ウィーズリーおじさんもマグルのいろんな製品についてあれこれ質問できる相手ができて喜んでいた。おばさんもモニカを気に入るしかなくなっていた。彼女が来てから屋敷の除染のスピードが上がったのは事実だった。

モニカと上手くやっていないのはシリウスだけだった。と言うかシリウスはモニカに自分と上手くやる機会をあげなかった。彼女が騎士団の任務で出掛けた時だけシリウスはバックビークのいる母親の部屋から出てきていた。モニカがここに来て初めての夕食以来、シリウスは食事の時慎重に席を選ぶようになっていた。

僕はシリウスが嫌な思いをするだろうと思ってあまりモニカとは話さなかった。だけどモニカがここに来て一週間が経った時だった。ロンとハーマイオニーと三階の除染をしていて『モールド・リムーバー』の追加を貰いに階段を下りた時、二階の客間にモニカが一人立っていた。

「何してるの?」僕は階段の上を覗いてシリウスが母親の部屋にいることを確認してから話しかけた。
「あら、ハリー。これ、見事な家系図だなって思って」モニカはブラック家のタペストリーの金色の糸を指でなぞりながら言った。
「でも、シリウスは嫌ってる。この家系図もブラック家の事も」
「あなた、シリウスの事よく分かっているのね」モニカはニッコリしながら聞いた。
「だって、前にこれを見ながら僕にシリウスは話してくれた。この家の全員を憎んでたって」
「そう。それで、ハリー、あなたは私と話していいの?」
「え?」
「だって、あなたシリウスに気遣って私と話さないでいたんでしょう」モニカは言った。
「そうだけど」僕は白状した。「でも、聞きたい事があって」
「ご両親の事?」

モニカは何でも分かっているようだった。タペストリーから目を離して僕と向かい合った。モニカにじっと見られるのはこれが初めてな気がした。

「残念だけど、私あなたの両親と違ってレイブンクローだったから、ふたりの事はあまりよく知らないの」
「え、そうなの?」驚いて声に出た。
「ええ。ふたりときちんと話すようになったのは、騎士団に入ってからよ」
「てっきり、父さん達と友達だと思ってた。じゃあモニカはどうして騎士団に入ったの?」
「シリウスよ」モニカはシリウスがいたはずのタペストリーの焦げた場所を触って言った。
「シリウス?モニカはシリウスと友達なの?」

僕の質問がよっぽどおかしかったのか、モニカは眉を寄せて困ったように笑った。

「いいえ、シリウスと友人だった事はないわ。あのね、私達がホグワーツに入学したまさにその日、彼と目が合った瞬間に思った事があるの」
「思った事?」
「この人とは絶対友人にはなれないって。彼もそうだったと思うわ」
「どうして?」
「たまにいるじゃない?相手の事をほとんど知らないけれど、どうしても仲良くなれそうにない人って。私にとっては彼がそうだったの」

じゃあどうして、モニカはあの日シリウスと抱き合ったんだろう。それにどうして、騎士団に入ったきっかけがシリウスなんだろう。だけど、口を開く前にロンが現れた。

「ハリー、ママがパパが帰ってくる前に黴落とさないと夕飯抜きだって。早いとこ始末しちゃおう」

モニカは微笑んで僕達を除染に戻らせた。聞かなかった質問には答えがなかった。

世界に意味なんて無かったころ


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