シリウスがぎょっとして目を見開いているのを、気にしていないモニカはワインの香りを確かめながら言った。

「しもべ妖精のワイン?とても美味しい」
「君がここに住むだと?」
「万が一に備えてよ」
「万が一って?」トンクスが聞いた。
「前回騎士団にいた時ちょっとしたいざこざがあって、私死喰い人に大人気なの」

モニカは軽い口調で言った。シリウスのこめかみがピクリと動いたのを僕は見逃さなかった。

「その話はいい噂として聞いているよ」キングズリーはそう言いながら、ワイングラスを掲げた。モニカは肩を竦めて控えめに笑った。

「魔法省が君を卒業後、闇祓いとして雇えなかったのは痛手だ」キングズリーは言った。
「モニカってそんなにすごい魔女なの?」僕は思わず、テーブルの反対側から聞いた。
「すごいってものじゃないよ」リーマスが言った。「彼女は学生時代ずば抜けて成績が良かった。ハリー、君は昨日の夜私達がやり合った所を見ただろう。彼女の本気はあんなもんじゃない」
「あんなものよ」
「謙遜は良くない。それにさっき自分で言ったじゃないか、久しぶりに魔法を使ったから上手くいかなかったって」
「まあ練習は必要かも知れない。ダンブルドアにも杖を慣らすように言われたわ。リーマス暇な時、相手してもらえる?」
「そうしたい所だが、ダンブルドアから頼まれ事があってしばらく家を空けるんだ。それに昨日であれだから、君が調子を取り戻したら本当に殺されてしまうかもしれないからね」

リーマスはほんの冗談で言ったらしかったけれど、ウィーズリーおばさんとハーマイオニーとトンクスはその言葉にピクリと反応していた。

「僕達が相手になる」
「暇すぎて忙しいけど、時間なら作れるはずだ」フレッドとジョージがモニカを見ながら言った。
「あなた達は魔法を使いたいだけでしょう!」とおばさんが叫んだ。
「そんなことないさ!僕達はただ騎士団に協力したいんだよ」
「それにダンブルドアが望んでいるし」

フレッドとジョージはダンブルドアの名前の名前におばさんが弱いことを知っていた。おばさんはぷりぷりしたけれど「好きにしなさい」と言った。

「フレッドとジョージ、私の代わりを務めてくれるのはありがたいが、気を付けるんだよ」リーマスはニヤリとしながらふたりに言った。
「大丈夫、手加減するさ」
「貴婦人に対する振舞いは心得ているから心配ご無用」
「そうじゃない。彼女は恐ろしく優秀な魔女だからね。油断していると足を掬われるよ」
「よして、リーマス」

モニカはリーマスのことを見て、そっと言った。しかしリーマスはいまだに笑ったまま続けた。

「学生時代、君ほど知識があって緻密に魔法を扱える学生はいなかったじゃないか。だから闇祓いになるチャンスもあった」
「どうしてならなかったの?」闇祓いは僕の中で唯一考えた事のある仕事だった。
「なんて言うか、周りに反対されたのよ」
「闇祓いなんてなりたくたってなれるもんじゃないのに…。ならないなんておかしいよ。代わりに何になったの?」ロンが口に芽キャベツを詰めたまま喋ったから、ウィーズリーおばさんとハーマイオニーから冷たい視線を送られていた。
「前回騎士団に居た時はマグルの仕事をいくつか。騎士団の活動が不規則だからどれも続かなかったけど」ロンが「わーお、杖なしの仕事かよ」と感心の声を漏らした。「それで、騎士団を抜けた後は医者として働いていたわ」
「医者って、あのイカれたマグルのこと?」
「そうよ」
「医者だってなるのはとっても大変なのよ」ハーマイオニーがロンの発言を咎めるように言った。「じゃあ、モニカはこの十四間マグルの世界で生きていたの?」
「ええ、だからこの十四年間杖を握っていなかったよね」
「嘘だろ。魔法なしの生活なんて、選べても選ばないよ」ロンが言った。
「あなたはもちろんそうでしょうけど、私はマグル生まれだから自分のもとの生活をしていただけなのよ」
「そうなの?私あなたは闇払いになれるくらいだから、てっきり生まれた時から魔法に囲まれて育ったんだろうって、そう思った」
「マグル生まれが他の魔法使いや魔女より優れていないなんて事ないわ。リーマスから聞いたけれど、あなたもマグル生まれで、とっても優秀な魔女らしいじゃない。そういう事よ」

モニカはにっこりしながらハーマイオニーに言った。ハーマイオニーはモニカに対する不信感が一気になくなったようだった。それからテーブルはウィーズリーおじさんを中心にモニカのしていた医者の仕事やマグルの話になった。モニカは僕やハーマイオニーよりも丁寧に辛抱強くおじさんの質問に答えていた。

僕はモニカがマグル生まれだという事に驚いていた。そう言う事だと、僕の仮説は成り立たなくなる。マグル生まれが死喰い人になれる事はあり得ない。

食事は賑やかな時間になった。クランブルがデザートとしてテーブルに置かれるまでにだいぶ時間が過ぎていた。キングズリーとトンクスはクランブルを食べると、帰っていった。僕もロンもお腹がいっぱいになって、ぼんやりとした頭でクディッチの話をしていた。ハーマイオニーはウィーズリーおじさんとルーピンといまだにモニカとあれこれ話していた。

シリウスだけは、黙ったままクランブルのソースをスプーンに絡めたり、ひっきりなしに足を組み直したりしていた。僕の無罪が決まって以来シリウスは塞ぎ込んでいたけれど、それがもっと悪化したのは誰が見ても明らかだった。けれど、隣に座っているモニカだけはまったく意に介していないようだった。


嫌いな人のはなし


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