私たち幸せの犠牲者です

星がきれいな夜だった。浅い睡眠から覚めて見えた空は、いつかの夜を彷彿とさせた。俺がまだ、なにも分かっていなかったクズのころ。オビトが死んで、もう二度と同じフォーマンセルが組めないとわかったあの日。

テンゾウの浅い呼吸を聞きながら寝返りを打てば、少し離れたところで見張り番をしている彼女の背中が見えた。髪を風に靡かせて、のんびり空を仰いている。なんというか緊張感がない。それでも、暗部きっての遺体処理のスペシャリストで、潜入にも長けているのだから驚きだ。

あとは里に帰るだけで、周りには敵のどころか動物の気配すらしないが、それでもいつどこで敵が襲ってくるかわからない。本当はこんなところで仮眠なんて取りたくないが、俺たちはチャクラを使いすぎた。相手が情報以上の大所帯で、大戦中に滅びたといわれていた血継限界の生き残りもいた。二小隊での作戦で、結局残ったのは小隊にもならない俺たち三人だけだった。俺たちよりも相手の方が数も能力も上回っていた。俺は部下を2人生きて里に連れて帰ることができるのに満足しなければいけない。それでも、隊長としてもっと別の、全員が生きて帰れる方法はなかったかと思ってしまう。

「…なーにしてるの」

そっと起き上がって、彼女の背中に話しかける。一瞬包帯の巻かれた肩が上がるのを見逃さなかった。いくら仲間の気配とはいえ、真後ろに来ても気づかないのは、ヤバいんじゃないの。

「…見張りです」

それは大前提だし、様子からして見張りは手抜きだし、その答えは違うでしょ。でも彼女の声がいつものと違うので、突っ込むのはやめた。面を付けているから表情まではうかがえないが、声色からしてしょげてでもいるんだろう。星空から視線を下ろした彼女の隣に腰を下ろす。

「……………」
「いつものおしゃべりはどうしたの」

理由は間違いなく俺なのに、あえて質問する俺もたいがい曲がっている。珍しく静かな彼女は、普段は感情ダダ漏れの、それはもう年頃の女の子そのものだった。だが、彼女は15歳で上忍昇格と同時に暗部に所属して3年になる忍だった。里の同世代が仲間や恋人と出かけているなか、こんな面をつけて里の汚れ仕事をしている。

「…さっきのことなら、もう怒ってないよ」
「ほんと、ですか」

分かりやすい。俺の言葉を聞いて、彼女の声が明るくなった。萎れる彼女が気の毒だったのでこっちから歩み寄れば、すぐに元気になった。さっきの戦いでの彼女は、あまりにも向こう見ずだった。もう少し懲らしめるべきだったな、と今となっての後悔。

しばらく経って空が明るくなり始めたころ、テンゾウが起き出した。そろそろ出発するべきだろう。里に向かうために三人それぞれ荷物を背負う。予定では暗いうちの帰還だったが、仮眠したぶんの遅れは仕方ない。

森を抜け里に着いたころには、朝になっていた。明るくなった空の下で始めて足を止める。ふたりは全身に返り血を浴びていた。面の白い部分もほとんど赤に染まっていた。俺も似たような状態なんだろう。風が吹くたびに血の匂いが鼻につく。

「お味噌汁の匂い!」

彼女が右腕を広げながら声を上げた。左腕も肩に包帯が巻かれてなかったら伸ばしていただろう。高台からは里の様子がよく分かった。里全体が起き始め、朝食の匂いや、テレビの音、笑い声が開かれた窓から漏れていた。

「森の反対側から行こう」

里が活動的になり、道にも人の姿が多くなった。なかにはアカデミーに行くであろう子供の姿もあった。それはそれは楽しそうな顔をしていた。俺たちは、この光景に似合わない。火影塔へ向かうのには、ここから一直線だったが、里にこんな姿をさらすのは良くない。俺の一言で理解した二人は、頷いて置いていた遺体袋を持ち上げた。その場で処分してしまうには惜しいと判断した敵の遺体だ。左肩を庇う彼女に代わろうとして、拒まれる。

「大丈夫です」

そう明るい声で言う彼女は、面の下でどんな顔をしてるだろう。彼女の肩を傷つけたのは俺だった。彼女は何を思っているだろう。

「先輩、行きますよ?」

テンゾウに、はーいと返事をする。商店の前を走りアカデミーに向かう子供達の笑い声が聞こえた。今日も、里は穏やからしい。