ダンス・ウィズ


音楽が終わった。もう2曲続けて踊ってる。いい加減次は休みたいと彼女に視線で合図すると首を振られた。そんな間に次の音楽が流れ始めた。これが最後と心の中で俺は勝手に決めて、もう一度彼女の手を取りもう片方を腰に回した。スローテンポの音楽に合わせてリードする。そうすると、彼女は嬉しそうに笑った。

「どうして、女って踊るのが好きなんだ」

音楽が終わると、喉が渇いたと言って俺はひとりダンスフロアから抜け出した。長椅子の端に座ってバタービールを瓶から飲んでそうぼやけば、同じようにダンスフロアから逃げてきて反対側の端に座っていた悪戯仲間は困ったように首を振った。

「パッドフット、男の僕に聞かないでくれ」
「わりいな、ムーニー」

そう言って俺たちは意味もないのににやりと笑って、バタービールをぶつけて乾杯した。リーマスはダンスフロアに視線を戻した。俺も何となくそっちを見ると、なまえがハッフルパフの7年と踊っていた。激しい音楽に合わせて、二人はゆるんだ笑顔を浮かべて陽気に踊ってる。なまえはそいつの両肩に腕を回して、今にもキスしそうなくらいの距離でくすくすけらけら。リーマスがその光景を見ているかは知らないが、思わず口に出てしまう。

「でも、どうして女って誰とでも踊りたがるんだ」
「まだその話をするのかい?」

ムーニーはうんざりとした顔で俺を見た。でも、何年も親友をやってる俺はリーマスのその顔が、いつもより人間らしい色をしてるのを知ってる。それはバタービールのせいではないはずだ。

「いや、だって、女って全然わかんねえ」
「それって、君みたいにいろんな女の子と付き合ってるやつがいうセリフかな」
「何人と付き合おうが、わかんねえもんはわかんねえよ」

なあそうだろ?と同意を求めると、リーマスは人差し指で頬に添えて考えるポーズをとった。

「数よりも質、だよ。きっと」
「…はあ?」
「だから、何人と付き合うかとかじゃなくて。その人とどれだけ時間をかけて向き合ったかじゃないのかなって」
「いきなりどうしたんだよ、ムーニー」

別に俺はこんな話をしたかったわけじゃない。ただ女って踊りたがるよなって、そういう話だったはず。急に居心地の悪くなった俺は残りのバタービールを一気に飲み干してごまかす。

「君こそどうしたいんだい」
「どうしたいって何が?」
「彼女のことに決まってるだろう」

そんなの、決まってるだろ。ちょっと遊んでヤッて飽きたら別れる。そう答えるつもりだったが、リーマスがいつにもまして真面目な顔をしてるから俺は何も言えずに握ったままの瓶に視線を落とすしかなかった。

「君もいい加減学んだと思うんだけど」
「…うるせえよ」

俺の悪い癖。いつだったか、なまえに指摘された。自分の都合が悪い時は一方的に終わらせる所があるって。それ以外どうすればいいんだ。振り払うように頭を雑に掻く。それっきりリーマスと話をしないでいると、激しいビートの音楽が終わった。次はがらっと変わって、ゆったりな曲の前奏が始まる。視線を上げれば、ダンスフロアで7年の男の手から抜け出したなまえがこっちに来る。さっきの踊りのせいか頬が赤いし大きな笑みを浮かべてる。

「さっきの曲、すっごいテンション上がっちゃった!もう喉からから。バタービール分けて?」

なまえは俺たちの前に来ると一気に話した。俺の瓶は空っぽで、かすかに振って中身がないのを示すと隣のリーマスがすっとなまえにビールを差し出した。

「ありがと、リーマス」

そう言ってなまえは俺たちの間に座ってバタービールを仰いだ。なまえはダンスフロアを見ながら曲のリズムに合わせて身体を揺らした。しばらく三人とも黙ってダンスフロアからの音楽を聴いていると、リーマスが言った。

「さっきの曲、随分楽しそうに7年生と踊っていたけど、あれって嫉妬させるためなんだろう?」
「分かっちゃった?ダンス嫌いなパートナーに、私をほっておくとどうなるか分かってもらおうって思ってね」
「随分と当て付けなやり方だね」
「ふふ。効果があるといいんだけど」

あくまで視線はダンスフロアに向けたままなまえは答えた。音楽が終わった。次の曲もスローテンポのようだ。そろそろフロアに戻ったほうがいいかな、なんて思ってるとリーマスが立ち上がってなまえの前に手を差し出した。

「踊ろうか?」
「ふふ。どうやら、効果があったみたい」
「踊ってあんな笑顔になるなら、僕の前でにしてほしいからね」

その手を見てなまえはすごく嬉しそうな顔をして右手を重ねた。リーマスに引かれてダンスフロアに戻るなまえは途中で振り返って俺を見た。

「いつまで座ってるの?早くしないと、彼女ほかの男に取られちゃうわよ!」

なまえはリーマスと繋いでないほうの手でダンスフロアの奥を指さした。そっちを見ると彼女が、レイブンクローのやつと踊り始める所だった。正直、彼女がほかのやつに取られたってどうでもいい。俺はダンスが好きじゃない。だから踊らない、それだけ。ああ、そういえば去年のダンスパーティーだった。なまえに俺の悪い癖を指摘されたのは。どれだけ言われても最初の一曲しか踊らない俺になまえは怒って、それで俺も怒って、俺たちは終わったんだ。

なまえたちに視線を戻すと、ふたりはダンスフロアの片隅で腕を回し合って踊っていた。なまえは楽しそうに笑みを浮かべてる。胸がちくりとした。きっとこれがリーマスが言った、いい加減学んだことなんだろうな。なまえを取り戻すにはもう遅いけど、きっとリーマスならなまえを怒らせたり泣かせたりしないんだろうな。そう思いながら、俺は重い腰を持ち上げて、ダンスフロアの人混みに向かった。レイブンクローから彼女を取り返してみよう。