ディー・アイ・シー・ケー


「御機嫌よう!ブラック家のご長男、シリウス!昨晩は夢のような素敵な時間を過ごしたんだろうね」

え?とわざとらしい口調で大広間に現れたジェームズは俺の肩を回しながら、隣の席に座った。リーマス達もやって来て向かいの席に座った。ジェームズが肩を組んだまま、空いた方の手でテーブルの上の飲み物を取ったりパンやベーコンを皿によそうので、俺は引っ張られるように身体が傾いた。勢いがいいせいで、飲んでた紅茶が顔に盛大にかかった。マグを叩きつけるようにテーブルに置いて、ジェームズの腕を力いっぱい引き離す。

「なんだい、パッドフット。やけに機嫌が悪いじゃないか」
「お前のせいだ」

ジェームズの顔も見ずに言ってやる。話しかけんなと思ったが、ジェームズが空気を読めないことを忘れていた。

「いや、ちょっと待ってくれよ。リーマス、授業まであとどのくらいある?」
「…30分以上あるね」

席に着いた瞬間から俺の様子に気づいて我関せず日刊預言者新聞を読んでいた、リーマスがこっちを見ずに面倒くさそうに答える。

「なるほど…、面白い。これは面白いな!さぞハードな夜を過ごしたはずなのに、君はこんな時間に余裕を持って朝食を食べてる」
「………」
「それに、睡眠を惜しんででも勤しんだとしたら、飲むのは紅茶よりコーヒーのはずだ。君は今までもそうだったからね」
「………」
「もっと言えば、どうして君がいてモニカがいないんだろうね」

俺を目を細めて見て、指を添えた顎で何度も頷くジェームズ。つまり、君が機嫌が悪いのは、僕ではなく、彼女が原因だと僕は推測するよ。そしてこの推測は間違っていない。そうだろう?と問われる。ああ、こいつは空気は読めないけど、察しがいいんだよな。

「…そうだよ」
「やっぱり!で、何が原因だい?回数のことで喧嘩でもしたのかい?」

だったら僕は君の肩を持つさ、だってなんたって君は3週間もおわずけのまさに飼い犬だったんだからね!と笑うジェームズ。俺の不機嫌の原因を当てられた時、全部白状しようと思ったが、今でこのからかわれようなら、本当のことを話した時には確実に良い笑いものにされる。

「ちげえよ」
「じゃあ何なんだい?」

大したことじゃないと、ごまかす。向かいの席で、新聞をテーブルに置いたリーマスと目が合う。うっすらと唇が笑ってた。それを見て、ああこいつ気づいてると確信。ジェームズよりもっと察しの良いやつと言えばリーマスだった。最悪だ。定期的と言わず毎日でも菓子を貢ぐぐらいの気持ちで、目線を送った。頼む、言わないでくれ。察しが良いリーマスは分かったというように、口の端を上げて、わずかに頷いた。

「ジェームズ、それぐらいにしなよ」
「そんなムーニー!親友が悩んでるんだよ。僕たちで助けてあげようじゃないか」
「昨日の夜何があったって、それはシリウスだとモニカの問題だよ。個人的なことを詮索して、僕たちがどうこう助言するべきじゃないよ」
「でも、君は知りたくないのかい?僕達わざわざ部屋まで貸したんだ!」
「僕は知りたくないさ」

リーマスが会話を終わらせた。ほっと息を吐いて、もう一口紅茶を飲む。まじで、感謝。今度のクリスマスにはどでかいプレゼントを贈ろう。チョコとか、チョコとか、チョコの塊とか。もう一度、リーマスにアイコンタクトを送る。すると、リーマスは微かに俺に笑ってから、ジェームズに向き合う。

「だってジェームズ、少し前まで女遊びが激しかったシリウスが、今や三週間もおあずけを食らったうえにその記録を更新してるなんて、そんなこと知りたくないだろう?」

ああ、終わった。リーマスが腹黒いってことを忘れてた。リーマスが今日イチの笑顔を浮かべて、ジェームズが声を立てて笑っていた。