ノー・インターコース


「……起き…、い…寝……る…?」
「…う、ん」
「………モニカ…!は…くしな…」
「もう…ちょ、と」
「朝食……、ないと…じゅ…に遅刻…」

フィルチがすっごく優しくて夢だと分かってる。けど、まだもう少し楽しみたいのに、肩を揺すられる。嫌だと枕に顔を押し付ければ、シトラスの匂いがして、ああそう言えば昨日はシリウス部屋で寝たんだと思い出す。その間も肩は掴まれたままで、むしろだんだん揺すり方が激しくなってく。ああー!私の快眠を邪魔するな!馬鹿犬!!!もう一つある枕を目をつぶったまままさぐって、私を起こそうと躍起になっているシリウスに向かって振り回す。

「きゃ…!ちょっと!!」

半分寝ているけど、それでも聞き間違えのようのない。きゃって。シリウスじゃないよこれ。きゃって。この声知ってるよ?

「お、おはよう…。リリー」
「おはよう、モニカ。朝から元気ね」

飛び起きれば、顔の横で枕を押さえているリリー。とっても素敵な笑顔を浮かべていた。

「えっと、どうしてリリーがここにいるの?」

あはは、と和やかな笑いを込めて伺えば、シリウスはどうしても起きない私をリリーに預けて自分はさっさと大広間に行ってしまった、とのこと。

「なるほど。起こしてくれてほんっとにありがとう」
「どういたしまして。あなたを起こすためならいくら頭を枕で叩かれても構わないのよ」
「ごめんなさい…!」

リリーに急き立てるままに、男子寮を飛び出し、部屋に戻り身だしなみを整え鞄をひっつかんだ。その間もごめんを連続投下するものの、それでもリリーの笑顔すぎる笑顔は保たれたまま。





「本当にごめんね!枕で殴ったのはシリウスだと思ったからなの!」
「問題はそこじゃないでしょ」
「ああ!そうだよね、そうだよもちろん。これからはちゃんと自分で起きるようにするから!」

同室のリリーなしに起きれたことはそうそうないのは分かってはいたものの、どうせなら朝食は楽しく食べたいので、大広間での廊下でどうにかリリーに許してもらおうと頑張るがなかなか上手くいかない。

「私が言いたいのはね、あなたの貞操の問題よ」

はたと立ち止まったと思えば、リリーは声を低くして言った。

「…それってつまり、私がシリウスの部屋に泊まったってこと?」
「もっと言えば、あなたが何をするためにシリウスの部屋に泊まったか、ね」
「ああ、そんなことか」
「そんなこと!わざわざルームメイトたちを追い出してまで、あなた達は…その、」
「セックス?」
「言わなくていいわ!」
「ごめん!」
「を、したわけしょう?追い出された側はあなた達ふたりが何をしたかなんて簡単に想像できちゃうじゃない!」

少しは周りの人たちのことを考えた方がいいわ、としかめっ面で言うリリー。

「リリーの言う通りだよ。これからは気を付ける。あと、…ちなみになんだけど、私たち昨日は、してないんだよね」

私の節操の名誉とリリーの信頼を取り戻すために、内々の事情を打ち明ける。するとリリーの瞳が見開かれた。

「あなた達、本当にしてないの?!」
「え…うん」
「どうして?」

あれリリーってこんな突っ込んだ話聞いてくる子だったけと思いながらも、昨日の話をする。

「私が口出しするべきじゃないとは思うけど…。モニカ、それじゃあシリウスが気の毒よ」

呆れ顔のリリーは私に向かってため息をついて、止まっていた足を大広間へと進めた。