21平方センチメートル


私がゆっくりと朝食を食べていたせいで、リリーと二人慌ただしくマグル学の教室に駆け込むはめになった。ただ、隣を早走りするリリーの視線はばっちりと気づいていたけど。

「やっぱり、私、あなたがシリウス・ブラックやジェームズ・ポッターと一緒にいるのは良くないと思うの」
「うーん。でも、二人はいい人たちだよ」
「いい人たち!彼らがいい人たちなら、世の中は今頃とっても平和なはずよ」

リリーはマグル学の授業中私に対してしっかりツンツンした態度を取ってくれた。まあ、リリーの心配を無碍にしているのは私なので甘んじで受け入れる。そのまま授業を受けて、マグル学から魔法史の教室へと移動中、無言の圧力が終わったと思ったら今度はこれ。

「確かに二人の悪戯ってほんと行き過ぎのこともあるけど、普段は面白い人だよ」
「私、彼らのことをかばうモニカのことはあまり好きじゃないわ」
「そんな!」
「それに、ステファン・ブルームやリチャード・ニーソンと付き合っていたときのあなたはとっても可愛らしかったわ」
「じゃあ、シリウスと付き合ってる私は可愛くない?」
「…そんなこと!今のあなたもとっても素敵よ」
「リリーだって気づいてると思うけど、ステファンやリチャードといる時より、シリウスといる時のほうが自然に笑ってられるよ?」
「分かってるわ、もちろん。あなたがシリウスを本当に好きだってことは。でも、それだから心配なの」

ブラックがあなたと付き合うまで何人の女の子と付き合ってたか知っているでしょう?それに、どんなふうに別れたかも。私の目からみてもブラックがあなたのことを好きなのはよく分かるけど。だけど、それでもいつかブラックが昔のようにあなたのことを傷つけないか不安なのよ。
そう言ってリリーはあのチャーミングな緑の瞳で私のことをのぞき込んだ。リリーをこんなに心配させてる私って悪いやつだと思いつつ、私のことをこんなにも気にかけてくれる友達がいる自分はハッピーだなとにやけてしまう。そんなお気軽な私の思考を読んだリリーは、もう、とため息をつき、それからつられたように微笑んで、この会話は終わった。

魔法史の教室にはまだ生徒がそろっていなくて、なるべく前の空いてる席へ行こうとするリリーの腕を掴んで後ろの方の席に座る。鞄の中から教科書から、形だけの羊皮紙と羽根ペンを取り出す。そうしていれば、だんだんと生徒が揃ってきた。リリーが教科書を開いて予習だか復習だかを始めたので、特に書きたいものがあるわけでもないのに、ごにょごにょと羊皮紙の端っこでペン先を遊ばせる。

「……んっ!!」

何かが頭を触ったかなって思った次の瞬間には耳の後ろをがっちり掴まれて後ろへ倒された。予期してないことで、首の骨が悲鳴を上げる。

「…私の首に御用の際は、ひと思いに斧で切っていただけませんか?」

何が起こったかと頭が後ろに倒れたまま視線を走らせれば、いつのまにか後ろに座っていたシリウスががっちりと私の首を掴んでいるではないですか。不意打ちで変に首の筋が伸びたので本日2件目のクレームをシリウスにぶつける。

「ニックに首の刎ね方聞いとく」
「それじゃあ、首つながったままだから」

離せと頭を振っても、シリウスの手はいまだにあたしの頭を掴んだまま。シリウスの顔が近づいてきて、え、なにキス?ってテンパればシリウスの唇が私のおでこに触れ………なかった。掴まれてた頭も自由になったので、なんだよって怒ろうと思えば、先生が黒板から現れたから、何も言えないまま前を向くしかなかった。

『何がしたかったの?』

羊皮紙に小さく書いて、こっそり腕を回して後ろの席に落とす。すると、すぐに私の肩越しにシリウスの手が伸びてくる。その手に挟まれた羊皮紙のメモを引き抜く。

『キスされるって思った?』
『質問に質問で返さないで』
『答えたら、答える』
『オモイマシタ。で、シリウスは何がしたかったの?』
『お前がシャンプー変えたって聞いたから、チェック』
『なにそれ』
『気に入った』
『は?』
『お前のシャンプー、いい匂いだな』

そこまでメモをやり取りして、にんまり。リリーが羽根ペンを止めて、無言で注意してくる。最後のメモを綺麗に折ってポケットに滑り込ませる。もう首の痛いのはどうでもよくなった。