彼女には不思議な力があった。定期的に傷だらけになる本当の理由を打ち明ける寸前のところまでいったのは一度や二度ではなかった。しかし話す話さないという葛藤を内側で繰り広げていると、彼女は決まって物憂げな視線を投げかけてくるので、そのたびに閉口せざるを得なかった。彼女の器用さはそういうところにあって、たやすく秘密を打ち明けるのを思いとどまらせるように、人の気持ちの揺れ動きに敏感だった。彼女にとって打ち明け話なんて煩わしいだけなのかもしれないし、他人の知らないことを知ることに価値を見出していなかったのかもしれない。





「久しぶりだね」

彼女は口が言葉を紡ぐたびに白い空気が出て空気に広がっていくのを楽しげに見ながら答えてくれた。以前芝に敷いていたブランケットは今は彼女を包んでいたので、僕は座る代わりにそっと彼女の横に立ったまま並んだ。

「秋が終わるころまで、わりと頻繁に来てたんだけどな」
「知ってるよ」
「そうなのかい?」
「うん、私もたまに来てたから」
「でも一度も会わなかったね」
「私ね、足音立てないで歩くのすごく得意なの」
「うん?」
「ここに来てあなたがいる時はいつもそっと戻ってたんだ」

どうやら、彼女は僕を避けていたらしい。あの交わした言葉と裏腹な彼女の行動に分からないな、と眉が寄る。

「気を悪くしないでね。廊下で見かけても目が合ったことなかったから。私のことよく思ってないのかと思って」
「違うんだ。それは僕がいけないんだ。その…」

その、君のことを友人には知られたなくて、と続けようとしてそれが誤解を招きかねないことに気が付き、言葉が尻切れになってしまった。はっきりしない僕の言葉を待つように彼女はしばらくの間黙ってこちらに耳を傾けているようだった。彼女に会いたいなと思っていたはずなのに、いざ会うと言葉は僕の咽喉の奥で絡まってつかえてしまう。

「私もいけないよ。私ね、あなたのこと見かけては話しかけようとしたのに、結局一度も声をかけなかった」
「そうだったのかい?」
「そうだよ。何度もあなたのこと見かけたんだけど。一度話しただけなのに、ずうずうしいかなって思って」
「そんな、ずうずうしくなんかないよ。それに、僕だって機会はあったのにいつもぐずぐずしてたんだ」
「…じゃあどっちもどっち、おあいこね」

そう言って彼女は微笑んだ。なんだか急に、これまでのもやもやが馬鹿らしく思えてきた。それに、彼女も僕と同じように僕に声をかけようとしていたことを知ると、不思議な暖かさが胸に広がった。杖を取り出し、雪の上に撥水呪文をかけて彼女の隣に腰掛ける。

「あなた、呪文が上手いんだね」

うらやましいな、とはにかむ彼女は羨望が宿っていた。

「そんなことないさ、僕の周りにはもっと上手いやつがいるよ」
「それって、ポッターやブラックのこと?」
「ああ。君も彼らのこと知ってるんだね」
「知らないほうがおかしいよ、とっても目立つし、フィルチを怒らすようなことばかりしているし」

それから日が傾いて風は強くなるまで、ジェームズやシリウス、それから僕のこと、彼女のことも少しばかり話した。途中ハッフルパフの7年生にかけた呪いの話をすれば、彼女は少し複雑な顔をした。でも、彼の耳が鼻になって鼻が耳になった話をすれば、彼女は破顔した。