07

寝坊した。音駒でマネージャーやってた時はこんなことなかったなあ。バタバタと準備しながら時間の計算をする。スマホでバスを調べると、会場の体育館にはどう頑張ってもウォーミングアップの途中に着くことになる。何を着るか考えるのが面倒で、万が一のとき着れるようにって今日使う鞄に入れていた音駒バレー部のジャージを引っ張り出す。

家を飛び出して、バス停に向かう。そう言えば、今日何時に終わるか聞いてなかった。お昼またぐのかな、食べるもの何にも用意してないや。

バス停に着くとちょうどバスが着た。席が空いてて、やっと落ち着ける。スマホを開くと、8時38分から9時4分までにメッセージの嵐。相手は想像つくけれど。

まず、1番未読の多いのクロさんと研磨とのグループチャットを開く。

黒尾 8時38分
俺らは時間通り、
あと10分くらいで着く。
お前はもう着いてる?
黒尾 8時47分
遅刻か?
黒尾 8時51分
山本がうるさいから、
早く来てくれ
黒尾 8時51分
樹里、
お前いまどこ?
黒尾 8時52分
樹里ちゃーん
孤爪 8時56分
クロ、うるさい
孤爪 8時56分
樹里はたぶん
夜更かししすぎて寝坊
孤爪 8時57分
樹里から2時過ぎに
ゲームのポイントの催促
あったから
黒尾 9時4分
ふざけんな、樹里

研磨なんで言っちゃうの。反論しようと思ったけど、もう9時過ぎてるからきっともうみんなフォーミングアップ始めてるだろうな。見られない前提で、「ごめんなさい、いま向かってます」とだけ返す。

チャット一覧に戻ると、まだ未読マークがある。猛虎からもチャット来てた。これは珍しい。

山本 8時53分
今日来るんだろ
山本 8時53分
俺たちにはお前が必要だ
山本 8時55分
あいてちわむ、
まねびびわ
山本 8時55分
間違えた、
美人マネージャー
山本 8時56分
これじゃ、試合前から
負けている!!!
山本 8時57分
樹里!!!!!!
頼む、早く!!

クロさんの「山本がうるさいから」ってこのことね。既読スルーして、またチャットルームに戻る。最後は夜久さんからだった。

夜久 8時57分
たぶん、みんなから
メッセージ来てると思うけど
焦らずに来いよ
夜久 9時00分
あと、
山本めんどくさいかも
悪いけど、よろしく


猛虎のメッセージのあとだと、余計に夜久さんの優しさが際立つ。「久々にみんなに会えるのに、遅刻してすいません。猛虎のことはいつもなので、大丈夫です」と返す。

体育館前でバスを降りる。猛虎も面倒だけど、たぶんクロさんの方がねちねち言ってくるかもなあ。建物の中に入ると、ボールの音と、シューズの擦れる音、掛け声が混ざって聞こえてきた。ああ、本当遅刻とかやだ。タイミングを見計らおうと、扉を少し開けて中を覗こうとした瞬間、ボールがこちらに飛んできた。

「うわぁっ!」

ほんのちょっとしか扉を開けてなかったからボールが顔面に当たることはなかったけど、ボールと鉄の扉が当たる重い音に合わせて悲鳴が出てしまった。

「すいません」

内側から謝る声がして、驚きを残しながらも私もこちらこそフォーミングアップ中にすいませんと言おうと思う。ガラっと重い音を立てて扉を開けた人物は、私を見下した。

「…なにしてんの」
「えっと、」

ユニフォームを着た蛍がいた。そして、2週感ぶりに話しかけられて、言葉に詰まってしまう。

「しかもなにそのジャージ」
「…、あー、えっとね」

蛍がここにいるということは、今日のクロさん達の対戦相手って烏野ってことか。それは気まずさいっぱいだなあ。なんて説明したらいいかなあ、なんて考えあぐねてると、「月島早く戻って来い」って誰かが呼ぶ声がした。それに蛍が振り返ったとき、扉の内側にいるクロさんと目が合った。「おー!」と声をあげてこちらに向かってきた。そんな声をあげると、みんな注目するじゃないですか。

「樹里おせーぞ。烏野の11番さんすいませんね。これうちのマネージャーです」

蛍にそう言うと、クロは私の腕を引っ張ってぐいぐいと猫又監督のところに連れてこうとする。「じいさん、驚くんじゃねえか」なんて楽しそうに言うけど、私の心はそれどころじゃない。

「来た!烏野、これがうちのマネージャーだ!!」
「水木?!」
「水木さん?」
「樹里ちゃんっ!」

猛虎、田中、タケちゃん、忠。みんな示し合わせたように声をあげて、その後お互いに顔を見合わせて、首を傾げてる。あーもう最悪だ。研磨を探すけど、奥の方にいて視線すら合わせてくれない。

「おおー!水木じゃねえか!こんなところで何してる」

猫又監督は私を見ると、大声で聞いた。

「今日は、クロさんから連絡もらって応援に来ました…」
「烏野の先生とは、知り合いなのか?」
「あのですね、…私、いま烏野に通ってるんですよ」

こんな偶然ってあるんだろうか。そして、ウォーミングアップ完全に中断してるし。「え!お前そうだったの?!」ってクロさんが驚いてる。うるさいよ、クロさん。

「えっと、なのであの武田先生、おはようございます」って隣のベンチに座るタケちゃんに挨拶をする。

「あの、もし先生方が邪魔だと思うなら、私二階席か、それこそ帰りますんで」
「おいー!樹里帰んな!あっちにマネいて、こっちにいねーとか不公平だろ!」

私の提案にはしっかり猛虎が反対してくれました。

「どうしますか、武田先生。こいつは昔はうちんとこのマネージャーだったが、いまはあんたんとこの生徒だ」
「僕としては、これはあくまで練習試合ですし、水木さんにとっては連休のプライベートなので…。それに何より、水木さんがいることで、そちらの士気が上がるなら、それを奪うことはできません!水木さんもジャージ着て、気合入ってるようですし」

タケちゃん、本当に良い人すぎ。

「決まりだな」
「よし、樹里荷物置いたら、ボール上げるの芝山と変われ。あと試合中は、記録頼むぞ」
「は、い」

反対側から、主に田中と田中の後輩の子とそれから忠の視線をすごい感じる。どうなってるの?みたいな視線。蛍は自分のチームの一番奥に立ってそっぽを向いてた。