06

蛍とはあれ以来話してない。あれだけ身長があるから私は窓の外から見つけることもあったし、廊下ですれ違うことも二回だけあったけど、あからさまに視線を逸らされた。隣に忠がいるときは、いつも忠が目線で謝ってくる。律儀だなあ、でもいつでも忠は蛍の味方だもんなあ。だから、忠もわざわざ私に話掛けてはこない。

「樹里、ゴールデンウィークの予定は?」

お昼休み、クラスの子たちでお昼兼お菓子パーティーをしてた。今日の話題はもっぱら、今年のゴールデンウィークの過ごし方。烏野はほとんどみんな部活に入ってるらしく、みんなの予定は、部活、部活、家族旅行、部活って感じだった。そして、最後、私の番。

「んー、私は特になにもないかな」
「そっかー。でも樹里こっち引っ越してきたばっかりだもんね。ゆっくりするのもありだよね」
「あ、それか何なら宮城観光でもすれば?」
「あれ、言ってなかったけ?私小中、宮城だよ」
「えーそうなの?」
「うん」

頷いてると、机に置いたスマホが鳴った。

「ごめん、友達から電話」

断って、ベランダに出る。

「もしもし」
『よお、樹里。元気してるか?』
「元気ですよー。てか、一昨日、グループチャットしたばっかりじゃん」
『そーだった。で、いま、一人か?』
「クラスの子たちとお昼食べてたんですけど、抜けてきました。いまベランダ」
『ちゃーんとクラスのやつらと仲良くやってんだな』
「ちゃんとやってますよ」
『息抜きは?』
「まあ、そこそこ」
『でんきてないんじゃねーか』
「色々あるんですって」
『色々って、例えば幼馴染のバレーボーイくん?』
「ネーミングセンス…」

はあ。ため息が出る。この人は包まない優しさは、堪えるなあ。それを悟らせない様に、つっこんでみると、向こうからカラッとした笑い声が聞こえた。あー、話逸らそうとしてるのばれてるな。それを言葉にしてないところも、また優しさなんだろうけど。

「で、どうしたんですかー、電話なんて」
『いやな、今度のゴールデンウィークなんだけど、なんか予定あんのか?』
「ないですけど」
『じゃあさ、日曜日予定開けとけよ』
「なんで?」
『俺たち、ゴールデンウィークそっち行くからよ』
「はあ…?」
『で最終日の日曜日、練習試合やるから見に来いよ』
「まあ、いいですけど…」
『決まりだな』
「え、待って。でもそれ私見に行っていいんですか?練習試合、あんまり部外者立ち入っちゃだめでしょう」
『あーじゃあ、あれだ、ジャージでも羽織って来いよ。うちのジャージまだ持ってんだろ?』
「持ってるけど」
『なんか言われそうになったら、マネージャーとでも言っときゃいいだろ』
「えーでも、それ嘘…」
『つい一か月前まではほんとだったんだから、大して変わらねえよ』
「…、うーん」
『俺らみんな、樹里ちゃんに会いたいんだけど?』

本当に、ずるいなあ。

「先生に怒られても知らないですからね」
『おうよ』

楽しそうな笑い声が聞こえた。

『じゃあ、詳しいこと分かったらまた連絡すっから』
「はい」
『くれぐれもクラスメイトちゃんたちと仲良くしろよー』
「分かってますって」
『じゃあ、またな』
「はい、ばいばい、クロさん」

ゴールデンウィーク、予定が出来た。