05

体育のサッカーが終わってグランドから撤収してると、渡り廊下を歩く田中さんと樹里が見えた。



「田中先輩、たまに美人な先輩と歩いてるの見るよな」
「あ?」
「ほら、何つーか、清水先輩とはまた雰囲気違うんだけど」
「あー、髪肩くらいのひとか?」
「そうそう」
「それがどうしたんだよ?」
「なんか、田中先輩とあの美人さんってなんかちがくねえ?田中先輩には勿体無いっつーか」
「田中さんに失礼だぞ!」
「じゃあ、お前は思わねえのかよー」
「…まあ、思わねえことはねえけど」
「ほらなー!」



そんな会話を、以前片付けのときに日向と影山がしてるのを聞いたのを思い出した。あのとき日向が言った美人な先輩はおそらく樹里なんだろう。田中さんの肩を叩く樹里に田中さんは日向や僕に絡むときのような顔で怒って、それを樹里は笑い飛ばしてた。

田中さんは際立って女の人と話すのが得意なわけじゃないと思う。現に清水先輩に対しては空回りだし。同学年っていうのは大きいかもしれないけど、たぶん昔から樹里は人づきあいがうまかったのもあると思う。

眺めてると、田中さんがこっちを見て、そのあとすぐに樹里もこっちを見た。昨日あんな顔してたくせに、僕を見て手を振ってきた。なんなんだよ。視線を逸らすと、隣にいた山口も樹里に気が付いてるみたいで、手を振り返してた。



放課後、山口と部室に行くと日向と王様しかいなかった。

「あ、月島!」
「……」

日向が俺を見て、好奇心丸出しの表情をしててうんざりする。

昨日、田中さんと一緒に体育館に現れてから樹里はちょっとした話題になってた。今朝も田中さんに樹里とのこと聞かれたし。

でもまあ、ありがたいのは、あの後すぐにゴールデンウィーク合宿の練習試合が発表されて、一番の話題にはならなかったこと。

「なあなあなあ!月島と山口って、田中先輩が昨日体育館に連れてきてた女の先輩と知り合いなんだよな?」
「…そんなこと聞いてどうするの?」

制服から着かえながら、返す。

「どうもしねえけど!あんな美人さんが田中先輩と仲良しっておかしくねえ?」
「さあ。あの人は八方美人だからね」
「なんだよ、その言い方!月島感じわりいぞ」

僕が君に感じ悪いなんて、いつものことでしょ。それに、樹里について間違ったことは言ってない。

「山口、体育館行こ」
「うん、ツッキー」
「おい待てよ、月島」
「君さ、話すよりサーブの練習とか、しなきゃいけないことあるんじゃない?」

後ろで日向ががやがや言ってるけど部室の扉を閉めて、そのまま体育館に向かった。