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「君はもう少し高校生らしく、はしゃいでもいいんじゃないの?」

三試合やって全部負けたあと、片付けをしてると音駒の主将に話しかけられた。高校生らしくって、あなたも高校生だろうと思いながら、「そういうの苦手なんで」って受け流そうとすると、後ろからさらに言われる。

「そういうさあ、『僕はいいです』みたいな態度してると、樹里に逃げられちゃうよ?」
「…なんですか」

はじめから、読みにくいひとだとは思ってた。余裕な表情をして、隙のないプレーをして、僕が関わりたくないタイプの人間だと思った。日向みたいに真っ向から感情をぶつけてこられるのも嫌だけど、こうやって自分の手のうちは明かさずにこっちの弱いところを的確についてくるのはタチが悪い。

「君でしょ?樹里の宮城時代の幼馴染って」
「…だったら、何なんですか」
「今日一日見てたけど、幼馴染って言うわりには全然仲良くなさそうだけど?」
「あなたには関係ないですよ」
「いーや。俺にとっては、いつまでたっても可愛い可愛い後輩マネージャーだからね」

主将さんは、音駒のセッターと一緒にボールを詰めてるの樹里を見ながら言った。

「君さ、プレイはクレバーだけど、人としてはまだまだじゃん。考える頭あるのに、もったいねえよ」
「…何が言いたいんですか」
「うかうかしてると、あっと言う間に幼馴染枠から弾かれるよ、君」
「知ったように話さないでもらえますか?」

僕と樹里はそれなにり分かり合ってる。小学校と中学校と学年はちがくても、放課後とかバレーのない休みの日はよく一緒にいた。それを、一年かそこら同じ学校に通ってたやつに言われると、無性に腹立つ。

「確かに、時間じゃ勝てねえかもしれねえけど、それでもこの一年あいつの傍にいたのは、眼鏡君じゃなくて、俺たちだ」

がつん、分かり切った事実なのに、こう面と向かって言われると、途端にその一年が現実として押し寄せる。くそ、なんなんだよ。

「そうみたいですね、じゃ片付けあるんで」

苛立ちも焦りも悔しさも全部隠して、愛想笑いで受け流す。立ち去り際に見えた主将さんの笑いは、僕の内側も見えてるみたいで、余裕いっぱいの顔で、余計に苛々した。分かってる。分かってる、言われなくたって、そんなこと。