ロンとハーマイオニーがうちに夕食を食べに来たのは、あの家を訪ねた日の夜だった。僕はまだ、二人にもジニーにもあの子の存在を告げていなかった。あの子の存在を知らされたのはつい最近だった。間違いがある訳ないとは分かっていても、確かめてからにしたかった。

ジニーが作ったラムシチューを食べて、いつもの様にあっちこっちに色々な話をした。食後のアイスクリームを食べている頃には、ジニーとロンがクディッチの今年のトーナメント予想で熱くなっていた。ホリヘッド・ハーピーズに所属していたジニーと長年チャドリー・キャノンズを応援しているロンとでは、互いに贔屓のチームがあるせいで中々予想が一致しない。溶けかけたアイスを掬いながら、聞き役に徹していると二人にどう思うか聞かれてしまう。今年はバリキャッスル・バッツが最高に調子が良いと思っていた僕だけれど、口に出すのは油に火を注ぐのと同じだ。口ごもって誤魔化していると、二階から泣き声がした。

「お目覚めね。さっき寝かしつけたばっかりなのに」

いち早く立ち上がったジニーは、キッチンでミルクを温め始めた。ジェームズの愚図る声はどんどん大きくなる。

「牛乳を飲めば泣き止んでくれるから、ありがたいって思わなきゃね」ジニーが、同じく母親のハーマイオニーに意味有りげに視線を投げて言った。
「温まったら私が持って行くから。先に行ってあげて」
「助かる。ありがとう」

ジニーが足早に階段を登って間もなく、ハーマイオニーも耐熱シリコンの容器にミルクを入れて二階に消えた。

「すっかり母親だな」ロンが呟いた。
「ああ」そう返しながら、僕はロンを見た。
「なんだい」ロンが眉を吊り上げて聞いた。「まさか、ジニーのやつもう一人妊娠でもしたか」
「違うよ」
「じゃあ、なんだよ。そんな真剣な顔して」

僕は一瞬黙って、二階から二人が降りてくる気配があるか耳を澄ませた。まだ戻ってくる様子がないと確認してから、僕は口を開いた。

「…モニカの事なんだ」
「モニカって、あのモニカの事かい?」
「うん」僕はアイスの器を押しやりながら続けた。「正確に言うと、彼女の子供なんだけど」

ビールの瓶を傾けていたロンがむせて僕を見た。

「え、ちょっと待てよ。モニカの子供って、どういう事だい」
「ホグワーツから知らせがあったんだ。今年十一才になるポートマンって子供がいるって」
「考えさせてくれ。−――十一才って言ったら、ちょうどモニカが失踪した後くらいの時の子だろ?そんな事ってあり得るのか?」
「うん。僕も驚いて、直接確かめに行ったんだ」
「直接ってあの家に?」
「ああ」
「でも、あいつら君の事相手にしないだろう?」
「もちろん門前払いさ。でも、あの人達が、わざとあの子の存在をずっと隠してた事は分かったし」
「相変わらずの人間だな」
「まあ、うん。まともに話を聞いてもらえなかったんだけど、帰りに子供に会ったんだ」
「それがモニカの子だった?」
「そう思う。すごく似てたんだ」

暫く僕達は黙った。僕は立ち上がって、自分とロンに一本ずつ新しいビールを取った。

「で、父親は?」
「あの人達は、父親なんかいないって口ぶりだった。知ってても教えてくれないだろうな」
「君はどう思うんだい」
「僕は、シリウスだと思う。けど、もしかしたら、あの人かもしれない」
「あの人って、セブルス・スネイプかい」
「うん。だって、あの子黒髪だったんだ」
「シリウスだってそうじゃないか。それに、ほら、あの人はずっと君のお母さんが好きだったろ?」
「うん。それは分かってるんだけど」
「確証がなくて不安なら、クリーチャーを使えばいいじゃないか。昔ダンブルドアが、君にシリウスの相続とかを確かめる時にやったみたいにさ」

僕はビールの王冠栓を手の中で遊ばせて、どう説明するべきか考えた。

「モニカ達に子供がいたってのは驚きだけど、嬉しい事じゃないか。テディだって同じくらいの年の、しかも親が親友同士の魔法使いの友達がいるって知ったら飛び跳ねて喜ぶぞ」ロンが明るい表情で言った。
「あの子は、自分の両親の事も、自分が魔法使いってことも知らないんだよ?」
「だったら、あいつらの代わりに君や僕が話してやれば良いじゃないか」
「何を話すって言うんだい」
「魔法使いだって事も。この世界の事も。両親がどんな人だったか。どれだけ君やこの世界の為に勇気ある行動をしたかとか。それに、僕達、あの夏と冬は十二番地で二人といたわけだし。色々話して聞かせてやれるさ」
「でも、それだけだろ?」
「それだけってどう意味だ」ロンが眉を顰めて僕を見た。
「だって僕達は、知らないじゃないか。僕達と出会う前の二人の事は何も。知ってるのはあの夏と冬のほんの二か月もない期間の二人じゃないか」
「そうだけど。それで十分じゃないか」
「僕はそうは思わない」そう力強く言えば、ロンは困惑した表情を浮かべた。
「どうしたんだい、ハリー?」
「待っててくれ」

僕は席を立つと階段を登った。子供部屋の前を通ると、ご機嫌になったジェームズを囲んでジニーとハーマイオニーが話をしていた。僕は寝室まで行き、目当てのものを掴むとダイニングルームに戻った。

「これ、読んでくれ」僕は、一通の手紙をロンに差し出した。


過去に堕ちていく


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