二人は上品なマグルの服に身を包んでいた。玄関で彼等を見た時、ワイシャツとスラックスを着ていて良かったと心底ほっとした。羽織っていたマントは予め鞄の中に押し込んでいた。彼等のようにブランド品ではなく何度も洗った為古着っぽいけれど、それでもマグルの服を選んで正解だった。彼等はじっと僕を見た。それから僕をリビングに招いた。

リビングに通されて、一人用のソファーを勧められる。僕が座るのを見届けると女性は、「紅茶を用意しましょう」とほとんど独り言のように呟いて奥のキッチンに消えた。男性は斜め向かいのソファーに静かに腰かけた。僕は彼が僕を盗み見しようとしているのに気付かないふりをして、部屋の内装を眺めた。そうすれば僕等はお互いに視線が合う事なく、観察する事ができた。

「話があるらしいが、どういった用件かな?」女性が三人分の紅茶とビスケットを持って戻ってきて自分の隣に座った時、男性が言った。
「手紙で書いた通りです」僕は男性の目を真っ直ぐに見た。
「ああ、そうだろうとも。だが、私達は君を知らない。突然手紙が来て、うちにやって来て。どうやって君を信用しろと言うんだ?」

彼は目を細めて疑わしそうに僕を見つめ返した。僕はすぐには言葉を返せなかった。僕は知らない誰かに知られているのに慣れっこになっていた。こちらが話すまでもなかった。だから、どう話せば良いか分からなかった。それに僕が知っている事はあまりにも少なかった。

結局、僕は正直に話した。僕が誰で何をしたか、僕達がどう出会ったか、彼女が何をしたか、何が起きたか。彼女が僕を憎んでいた事、それでも彼女が戻って来た事、そしてその後の事も。

「僕は知りませんでした、彼女が戻って来た事を。僕は許されない事をしていた。僕のせいで、彼女は大切な人を失って、彼女は僕を許さないと言っていた。それでも、彼女は戻って来ていた。彼女は僕の為に―――僕達の為に戦ってくれたんです。それなのに、僕はその事に気付かなかった。彼女の姿を、横たわっている彼女の姿を見て初めて知ったんです。彼女があの晩いてくれた事に」

話し終えて暫く、二人は何も言わなかった。紅茶を出してくれてから一言も話していなかった女性が、重ねていた掌を握り直して口を開いた。

「私達はあの子に言ってたんですよ、おかしな事に首を突っ込むなって。それなのにあの子は私達の言葉を無視して好き勝手したのよ。私達をこんな場所に隠れさせて不自由な思いにさせて。どんな事が起きようと、…正直言ってあの子の自業自得です」

そこで初めて彼等がどんな人間なのか分かった。二人の視線の意味に気が付くべきだった。僕はこのタイプの人間と何年も暮らしていた。彼女も彼等が「少し頭の固い人達」と言ってたじゃないか。それだって、どうして自業自得なんて言えるんだろう。これは「単なる考えの違い」じゃない。そう思うと急に怒りが湧いてきた。

「彼女はとても優秀で、強い信念を持っていました。それにあなた方と違い、寛容でした。その事を誇りに思うべきだと思いますよ」僕は思わず、棘のある口調になった。
「話は以上かな?」男性が立ち上がって言った。「玄関まで見送ろう」

話は終わりだった。その事を理解するまで数秒掛かった。女性の方ももう立っていた。二人とも僕が立ち上がるのを待っている。僕はやっとの思いで立ち上がった。無言のまま玄関に向かった。その間に怒りはショックに変わり、そして困惑になった。僕は彼等に期待していた訳じゃない、多くは。ただこの反応は予想外だった。

「それじゃあ」玄関のドアを開けて男性が言った。「もうお会いする事もないだろう」

僕は彼を見た。彼も、隣にいる女性も僕を見た。「さようなら」何か感情に任せた言葉を言ってしまう前に僕は二人に背を向けて外へと足を踏み出した。両足が外に出るその瞬間だった。家の二階から物音が聞こえた。甲高い音。僕は振り返った。しかし耳を澄ませる前に、男性はドアを閉めた。その激しい音に二階からの音は飲み込まれてしまった。僕はその音が何だったか分からないまま、閉ざされたドアを見つめた。


拒む理由


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