ナマエが任務から帰って来たと人から人へと渡った情報を耳にして、家に向かってみた。

「…電気付けないの」

玄関を断りなしに開ければ、真っ暗のリビングでナマエは椅子に座っていた。ちょこんと小さな置物みたいに膝を抱えている。玄関を上がったところにあるスイッチを押して、電気をつける。ぱちぱちと何回か光ってやっとついた蛍光灯はノイズの音がした。

「聞いたよ。お前が無事でよかった」

ナマエの向かいの席を引く。きぃ、と耳障りな音が立った。俺は椅子に腰かけた。そうすると、ナマエは抱えた膝に埋めていた顔をあげた。すっと真っ直ぐすぎる姿勢で俺を見た。

「私ね、悲しいの」
「うん」
「仲間がみんな死んだんだよ」
「知ってるよ」
「だからね、私いま、とっても悲しい」
「そうだね」

ナマエは首を少し傾げて、俺がまるで自分の言ってることが分かっていないのかのように訴えた。

「でもね、私ね、ずるいの」
「うん」
「人が死ぬと悲しくなることで、確かめてるの。まだ自分の心が死んでないって確認してるの」
「うん」
「だからね、いまもちょっと安心してる。みんなが死んで、私は悲しいから。それって、私の心はまだ死んでないってことだから」
「そうだね」
「ね、私ってずるいでしょう」

ナマエはそう言って小さく頷いた。俺はそれに返さない。ナマエが不意に立ち上がる。

「カカシ、夕飯うちで食べてきなよ」

今から作るから、そう言ってナマエはエプロンを身に着けた。手を洗い、食材をそろえ、鍋を火にかけて、野菜を切っていく。とんとんとん、そのリズムに合わせて鼻歌が聞こえてきた。熱した鍋に切った野菜が入り、調味料が加えられて食欲をそそる匂いがし始めた。

「ナマエ、俺も悲しい」
「なんで?」

菜箸を握ったままナマエはこっちに振り返った。なんでだろうね、そう返せばナマエは乾いた頬を綻ばせた。

「変なカカシ」

ナマエはまた鍋に向き合った。さっき途切れた鼻歌が聞こえ始めた。昔は泣き嘆いて倒れるまで何も食べようとしなかったのにね。

「召し上がれ」
「いただきます」

テーブルにお皿が並ぶ。ふたりで手を合わせて、箸を握る。俺は悲しいよ。お前の心が死んでるから。何がお前の心を殺したんだろうね。俺はいま、とてもとても悲しいよ。