深夜をとっくに過ぎたグリフィンドールの談話室。私たち以外はみんな眠ってしまって、暖炉のパチパチの音しか聞こえない。羽根ペンを握る私の隣で、誰かが持ち込んだマグルの雑誌を読むシリウス。珍しく真面目な顔してるシリウス、悔しいけどイケメンだ。認めたくないけど。なんだかムカつくので、左の肩で軽く体当たり。

「…んだよ」
「なんでもないよ」
「なんでもなくないだろ」
「なんでもなくなくない」
「なんでもなくなくなくないだろ」

なんだこの言葉遊び。面倒くさい。こっちを見てくるシリウスを無視して、羽根ペンを進める。

「…ちょっ!」

羽根ペン取られた。

「いま良いアイデアがまとまってたのに」
「だって、お前が無視するから」

さらりとそんなこと言われれば答えないわけにもいかないじゃん。かっこいいなって思ったの、と白状すれば、ニタッとして、え?と聞こえないふり。絶対聞こえてる!

「誰がかっこいいって?」
「だから、シリウスがかっこいいなって思ったんです!」

恥ずかしくて最後のほうは小さくなっちゃった。それでもシリウスは満足したようで、右側の腕を私に回して、ぎゅっと寄せてくれる。なんかその得意げな感じも、そういう動作をさらりとできちゃうのもムカつくけど、左側にシリウスの暖かさを感じればそんなことはどうでも良くなる。

「シリウスはあったかいね」
「………」
「ちゃんとあったかくて、生きてるんだって安心する」
「なんだそれ」
「だって、シリウスいつもふらって居なくなるんだもん。いつかそのまま戻って来なくなりそう」
「俺がナマエに心配されるとか、逆だろ普通に」
「えー、なんでよ」
「こないだ雪の上でスノーエンジェルって騒いでそのまま眠って死にかけたのは、誰だよ?」
「でもシリウスが起こしてくれたじゃん!」
「俺が気づくまで、お前の上にどんなに雪積もってたか分かってんのか」

そう言われれば、ぐうの音もでない。積もりたての雪がフワフワでうとうとしちゃってシリウスが見つけてくれた時は、また雪が降りはじてめててほとんど引き上げられるように助けられた。

「ああ、もうその話はいいじゃん。私も生きてるし、シリウスはあったかいし」
「よくねえよ。頼むから、心配させんな。ひやひやする」

そう言ってシリウスにもう一度ぎゅっとされる。ああ、私はシリウスを心配させたり、ひやひやさせたりできるのか。とたんに、胸いっぱいにこの上ない優越感が広がって、ふひひとマヌケな笑みがもれる。

「心配かけないようにするけど、シリウスにはずっと心配しててもらいたいなあ」
「安心しろ。ナマエが人に心配かけなくなる日が来たら、そろこそ心臓が止まるくらい心配するから」
「ははは、じゃあシリウスの心臓はずっと止まらないように頑張る」

すりすりと頭をシリウスの肩に預ける。なんだか、安心しきってしまって、眠くなってしまった。ここでならシリウスがいるし凍えることも死ぬこともなさそうだから、寝てもいいんじゃないか。二人で寝ちゃっても、朝になればリリーか誰かが起こしてくれるだろうし。そう結論づけて、ぽかぽかした気持ちで瞼をそっと閉じた。


それでは、夢で逢いましょう


「おい」
「…ん?」
「寝るより前にすることあるだろ」
「キスならシリウスからしてよ」
「なんのために夜中まで起きてるんだよ」
「え?」
「レポート今日までだろ」
「………あ」

私はまだまだ寝れないらしい。