「ふふ」

あ、また笑った。俺の彼女はよく笑うのだ。俺が息をするたびに笑うんじゃないかってくらいよく笑う。口を横に伸ばして静かに微笑んだり、片端だけ上げで意地悪そうに笑ったり、歯を見せて楽しそうにのどを鳴らしたり、恥ずかしげもなく大きく口を開けて爆笑したり。あんまりにも笑ってばかりいるので、頭が心配になる。こんなバカみたいな子を捕まえるなんて俺も末期だ。そんな笑い上戸の彼女と過ごす夜。俺の部屋。テレビを見る俺と雑誌を読む彼女。いつも通り。彼女が唐突に笑うのもいつも通り。

「なーに笑ってるの」
「んふふふ」
「楽しいの」
「ふふふ」
「ねえ」
「うふふ」
「お前気持ち悪い」
「ふはははは」

隣に座る彼女に肩をくっ付けて聞いてみるが会話にならない。目の高さが合うようにおでこを近づけると、彼女の目が三日月型になってきらきら光ってるのが良く分かる。よくもまあ、飽きずに笑えるもんだ。なんだって彼女は笑みを絶やさない。

「俺ね、今日の任務のときさ」
「ふふ、うん」
「指にね」
「うん」
「棘、刺さっちゃったんだよ」
「あははは」

ほら、また笑う。こんなどうしようもない話でも彼女は声を立てて笑うのだ。それで全然面白くないのに、彼女の笑いを聞いているとなぜだか饒舌になる。

「笑いごとじゃないの、超痛いんだから」
「ふは、痛いよねー私も棘きらい!」

こんなに近い距離で話してるんだから大声出さないでよ。びっくりしちゃうじゃない。

「見てよ、ほらここ」
「えー刺さりっぱなの?どれどれ」
「ほれほれ」

限りなく近い距離の間に左の人差し指を差し出す。彼女は両手でそっと掴んで俺の指を部屋の照明に良く当たるように傾けたりして観察している。俺は俺で、その人差し指を挟んで指三本分先にある彼女を観察する。長い睫と左だけ少し幅の広い二重の線。相変わらず楽しそうに曲線を描く口もと。

「棘抜いていーい?」
「いいけど、優しくね」
「ふふ、当たり前じゃん」

彼女が伸びた小さな爪で俺の指の皮膚をつまんで、きゅっと押すとそれはもう小さな小さな棘がにょきっと出てきた。それを指で払い、最後に息を吹きかけてどこかに飛ばした。終始にやにやしている彼女にありがとうと言えば、くりくりの目を細める彼女と人差し指越しに視線が絡む。

「ふはははは」
「…、今度はなに」
「カカシと目が合った!」
「なんなのお前」
「だって、めっちゃ近いんだもん!」

嬉々として言う彼女に困り果てる。どうしてこんなバカのような子が俺はいいんだろう。呆れかえる俺を見て、さらに笑い声を上げる彼女は底なしの陽気を持ってる。

「なんでお前っていっつも笑ってんの」
「だって、カカシなんだもん」
「んーちょっと意味が分からないかな」
「んふふふ、だって大好きなカカシがいると楽しくなっちゃうの!」

ふふふ、と満面の笑みで言ってくる彼女に俺もつられて楽しくなる。柄にもなく声を立てて笑ってしまう。変な子捕まえちゃったと思っていたけど、捕まったの俺の方みたい。こんなバカみたい子が、こんなバカみたいに好きなのだ。末期だな。