(11月上旬土曜日)

部屋に飾っていたカボチャをすべて回収し終えたことに満足して部屋を見渡す。オレンジのそれがなくなって部屋は本来の状態に戻っていた。シリウスが選んだダークブラウンの家具と私好みの暖色の小物。ハロウィンの飾りつけと思って、隣に暮らすマグルのお友達とくり抜いたカボチャを飾れば、シリウスに笑われた。腹いせに一緒に寝てるベッドのシリウス側にカボチャを3ダース分置いておけば翌日、綺麗に顔がくり抜かれて部屋のいたるところに飾ってあった。シリウスは騎士団が忙しくて、当日のパーティーには来れなかったけど、これはこれでハロウィンの良い思い出。


(11月中旬火曜日)

珍しく夜の早い時間に帰ってきたシリウスとシチューを食べる。

「そろそろクリスマスの飾りつけしなきゃね」
「ハロウィンの飾りしまったばっかりだろ」
「まあ片づけたのは私だけどね」
「………」
「で、さぼった罰としてシリウス君にはもみの木を買いに行ってもらおうかな」
「はあ。どうせこの部屋お前と俺しかいないんだし、そんなことしなくて良くないか?」
「良くないよ!こういうのはちゃんと楽しまなきゃ」
「………」
「11月中によろしくね」

めっちゃ嫌そうなシリウスだけど、ノーとは言わせない。


(12月上旬土曜日)

あのバカ犬!忙しいシリウスは結局もみの木を買ってこなかった。しかたなく、一人でファームに行って手に入れた。ツリーの飾りつけも私一人でやった。シリウスは、飾りつけされたツリーを見て口笛を吹いただけ。そんないまいましい記憶が思い起こされるツリーを見ながら紅茶をすする。今日は、クリスマスのギフトをシリウスと買いに行くと約束していた日だった。すでに2度すっぽかされてるので、念を押したにも関わらず、シリウスは自分のギフトを送る相手リストとごめんのメモを残して、私が知らない間に出かけてしまっていた。ぐずぐずしても仕方ないので、マフラーをぐるぐるに巻いて、いざ買い物へ。学生時代の友人や先生たちへのギフトをダイアゴン横丁で、アパートのお隣さんをはじめとするマグルの知り合いにはセルフリッジとハロッズで選ぶ。両手いっぱいの荷物を抱えてやっと帰れば、シリウスがソファで居眠りしてた。

「ちょっと!!!!!」
「……ん」
「ん?じゃないよ!なんで家にいんの!」
「…は?あ、…ああ!わりい、忘れてた」
「信じられない!」


(クリスマス当日)

あれ以来シリウスとはろくに口を聞いていない。シリウスの何が一番許せないって、イベントの飾りつけを手伝わないことでも、約束をすっぽかすことでもなく、イベントを全然楽しみにしてないこと。リリーに相談しても、気持ちは収まらない。シリウスは2日前に出かけたままなので、今朝は一人で届いたギフトをシリウスのと自分のとを分けた。さすがに当日はいるだろうと思って昨日置いた私からシリウスへのプレゼントはラッピングされたまま。馬鹿馬鹿しくて、それはベッドの下に蹴っとばす。それから仕事に出て、浮足立ってる同僚と働いて、やっと帰宅。シリウスと過ごせると思って予定を入れてなかったのが馬鹿みたい。アパートの部屋の鍵を開ければ、案の定部屋は真っ暗。うんざりして、電気も付けないまま、コートを脱いで鍵をラックに上に投げれば、

「メリー・クリスマス!」
明かりがついて、魔法の飾りつけがされた部屋が視界いっぱいに広がってる。

「…へ?」
「そんな反応かよ」
「え、え?ちょ…、これ、なに?シリウスがやったの?」

私が今朝部屋に出たときは、部屋の隅のツリーしかクリスマスらしさはなかったのに、今は魔法の雪や羽根の光る妖精が部屋を飾っていた。シリウスを見れば、ベッドの下に隠したはずのプレセントのドラゴンの皮を使った手袋をしている。

「リリーから聞いた」
「………」
「俺、こういうの苦手なんだよ。俺の家での祝い事なんて思い出したくないくらいひどいもんだったから」
「………」
「でも、リリーにお前のこと聞いて、思った。あの家でのクリスマスが拷問だったからって、クリスマスをないがしろにする理由にはならないって」
「………」
「だから、とりあえず今年はこれで勘弁してくれ。来年は手伝いもするから」

なんか喋れよ、とはにかむシリウスは私にアクアブルーの小さな箱を寄こした。箱を開ければ、女の子なら誰もが欲しがるそれがあって、思わず涙が溢れそうになった。

「も、なんなの。馬鹿犬のくせに…」
「ほかに言うことないのかよ」
「あーもう!メリークリスマス!」