するり、ベッドから抜け出す。窓から見える空は白み始めていた。少し肌寒い早朝。音を立てないように立ち上がると足の裏にひんやりとした床を感じて、とたんに布団に戻りたくなった。

「…もうそんな時間、」

やっぱり起きちゃったか。カカシの声が私の背中に掛かる。いつものんびりした声調は寝起きも変わらず。でも、マスクをしていない分、はっきりと耳に届く。もぞもぞと布団から抜け出したカカシはベッドに腰掛けて、私を見る。…そんな目で見たってこっちは任務なんだから、仕方ないじゃないか。カカシが私に良くやるのを真似して、カカシの頭にぽんって手を置く。真似しないでよ、と言うカカシが私の手を取って、自分の手のひらに収めた。万年冷え性の私の手をあっためるカカシの大きな手。

「カカシ、あったかい」
「お前は冷たい」
「眠いなあ」
「俺も」
「任務行きたくない」
「…それは、行かなきゃね」

行きたくないと言いつつ手を抜こうとする私と、行かなきゃねと言いつつ手を離さないカカシ。それが可笑しくてふふふ、と笑えばカカシも笑い返してきて、最後に手が解放される。カカシが起きているので、音を気にしないでペチペチと冷たい床を歩いて、洗面所に行く。冷水で顔を洗って歯磨きをしていると、向こうでカカシに呼ばれる。ペチペチという音を立てて部屋に戻った。

「色気がない」

途端に酷評される。カカシの視線は、歯磨きを咥えている私に注がれていた。口の中が泡で一杯でもごもごと文句を言えばそれは全部無視されて、窓を指差される。窓枠に鳥が止まっていた。伝達鳥。窓開けて手を伸ばしてやると、そこに咥えていた葉っぱを一枚落とした。薄明かりの空に飛び立つ鳥を見送って、窓を閉める。なんて知らせ?と聞くカカシに答えようとして、またもごもごとしか音が出ない。慌てて洗面所に引き返し口をゆすいぐ。相変わらず、何をするでもなくベッドに座っているカカシの前にまで歩み寄ってご報告。

「任務中止だって」
「良かったじゃない」

ね、と相槌をして、朝食どうしようと考える。カカシと二人揃って朝食を食べられる日はほとんどないので、何かちゃんとしたものを作ろう。

「何考えてるの?」
「朝ご飯、何にしようかなって」
「ナマエは色気より食い気だね」

呆れたように言うカカシに、そんな女と何年も一緒にいるのは誰だ、という視線を投げる。何が可笑しいのか、笑みを浮かべたカカシ。ヤバいと思った時には、腕を引かれカカシに跨るようにベッドに膝をついていた。腰に腕を回され引き寄せられるのを拒んだ。掴まれていない方の手をカカシの方に置いて距離を作る。上から睨んでやると、それすらも楽しそうな顔をされた。

「何するの?」
「なに、するの」

そうやって笑ったカカシは、私の服の中へと手を進める。あったかいカカシ指がつーと背中を撫で上げる。ぞわぞわして苦手だと言っているのに。色気ないんじゃないの、と言えば、本当に色気がなかったら何年も一緒にいないでしょ、と返される。気を良くした私は、普段あまり自分からしない口づけをした。

「珍しく積極的だね」

驚きで目を開いたカカシを見て優越感に浸っていると、カカシは自ら背中を倒し、ベッドに寝転がった。私がカカシを押し倒したような図。

「え、何?」
「今日はナマエがリードしてくれるんじゃないの?」

一瞬丸くなっていたカカシの目は、いやらしい三日月型に変わっていた。こっちが驚いて固まっていると、また背中を撫で上げられる。思わず、声が出てしまう。睨めば、仕方ないなと零され、上下が入れ替わる。上から見下ろされて、逃げ場がない。

「…魚でも焼こうかな」
「お前は本当に食い気だね」

組み敷かれた状態で、カカシの指が肌の上を走る。それに合わせて心拍数が上がるのを誤魔化そうと、朝ご飯のことを考えたが、心底呆れるという顔をしたカカシが首元に顔を埋めてきたところで、そんなことを考える余裕もなくなった。次に目が覚めたのは、朝をとっくに過ぎたお昼頃。…お昼ご飯何食べよう。