×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
#2 巡り合わせ

最近ニューヒーローが誕生したということで、巷では浮き足立っている者が続出している。

『期待の星☆バーナビー・ブルックスJr.の密着ドキュメントコーナー!!』

街頭テレビで、そうデカデカと報じられた後に出てきたのは一人の男性だ。
くすんだ黄色の髪。髪型は少し長めのカールヘアー。かけた眼鏡から除く翡翠の瞳は、カメラワークを考えて目線を外さない徹底振り。
それを見るともなく見ていたエンヴィーは「ああ」と納得の声を漏らした。

あれは世の女性が好みそうな顔立ちだ、と。



*****


『守備についた。そっちはどうだ?』
「こっちはもう既に計画進行中」

ザザッとノイズと共に入った無線の相手に素っ気なく返したエンヴィーは、照準を定めていた送電線の内一つの電線を撃ち抜いた。
やはりというか、人ではない建物や器物に対して銃口を向けた位では、悩みの種である頭痛の症状が現れる事もない。
エンヴィーが電線を切断した為に辺り一体が停電していくのも束の間、すぐに光を取り戻していくシュテルンビルド。

「OK。こっちは自家発電に切り替わったわ。そっちはどう?」
『ああ。こっちのセキュリティには電力が来てねぇ、死んだままだ』

事前に無線の男の仲間が建物の電力回路を弄ってくれたお陰で、今いる男達の場所まで電力がいくことも無くなった。
これで彼らも目的のものを盗み出せる事だろう。

「そう、じゃあ私は早めに退散するから」
『ありがとよ、エンヴィー!』
「あとで依頼料の2万シュテルンドル、送金することを忘れないでよね」
『ああ!じゃあな!』

別れの挨拶を最後に、ブツっと切れてしまった無線を一瞥したエンヴィーは、ビルの上からそれを投げ捨ててしまった。
そして懐から新たに出した携帯電話で、とある人物にコールをした彼女は、事も無げにこう告げる。

「私です。…ええ、あの男達ですが、こちらを疑いもせずに窃盗を行っています。…問題ありません。もう数刻すればヒーロー達に全員捕まります。…はい。…ええ、それでは」

状況報告だけの通話はすぐに終わった。
今回の彼女の依頼はある人物のバックアップを行う仕事ではあったが、その雇用主が無線の男達というわけではなかった。
続いてヘッドセットを取り出したエンヴィーは、左耳に装着しながらマイク越しの人物に呼び掛ける。

「スケィス、囮を泳がせたわ。そっちはどう?」
『あと少し時間がかかりそうです。貴方の方は?ヒーロー達は狐狩りを楽しんでますか?』
「…ええ。猟犬のように走り回っているわ」

計画は順調。懸念があるとすれば、あの男達がどれだけヒーロー達を足止めできるかという事。
そう考えたエンヴィーは先の未来を読む為に自分の能力に呼び掛けた。
身体から滲み出てくる力に呼応して、全身や瞳が青く発光していくのが分かる。
それと同時に自分の視界の向こうではシュテルンビルドの夜景とは別の、少し先の未来の光景が自動的に再生されていった。
この計画の邪魔となる存在の姿が──。

「ヒーローが一人、こっちに向かってくる」
『えぇっ!?』
「所詮、狐は狐だって事よ。あとは私が時間を稼ぐから、貴方は作業を続けて」
『りょ、了解です!』

直ぐ様、スケィスに指示を出したエンヴィーは、再び今日の相棒である狙撃銃バレットM82を構え直す。
スコープ越しに獲物となるものを物色しながら、これからやって来るであろうヒーローの存在を忌々しく思った。







今夜もいつもの如くブレスレット型携帯端末から出動要請が入り、急いで現場に駆け付けてみたのだが、既に現着していたヒーロー達によって事件はあっさりと解決。今回の事件で得た僕のヒーローポイントは雀の涙程度の微々たるものとなってしまった。

「全く。おじさんの所為で、折角の見せ場をふいにしちゃったじゃないですか」
「俺の所為かよ!?」
「それ以外に何だって言うんです?僕一人なら今頃上手くやってましたよ」

それを悲しいかな、会社の方針でこんなおじさんと組まされる羽目になろうとは。
頭を抱えるバーナビーに虎徹は尚も言い寄ろうとするが、彼は聞く耳を持たない。
それよりも他のヒーロー達の様子がおかしいような…。

「言っとくがな、今日の俺はお前より活躍してた…って聞けよ!!」
「何かあったんですか?」

僕が声をかけてみると、ヒーローの中でも一番小柄な少女であるドラゴンキッドがこちらに気付いてくた。

「あ、バーナビーさん。いえそれが、この辺り一体、今停電中なんですが、その原因がどうやら銃か何かで電線を撃ち抜いたからみたいなんです。けど、その犯人が誰か分からなくて…」
「は?」
「そりゃあ、そこにいる窃盗団の誰かが撃ち抜いたに決まってんじゃねぇか」

おじさんと意見が一致するのは癪だが、確かに状況証拠からみてもそういう考えになる筈だ。けれど、その場にいた他のヒーロー達全員、揃って否を唱えた。

「それが、捕まえた犯人達を取り調べてみても、それらしい狙撃手がいなかったのよ」
「拙者達が犯人達とやり合っていた時も、俺達には狙撃手がいるんだぞ!って散々騒いでいた割には、狙い撃たれるような事もなかったでござる」

ファイヤーエンブレムさんに続き、折紙先輩が紡いだ言葉にスカイハイさんやロックバイソンさんも、うんうんと頷いている。

「はったりだったんじゃね?」
「いや…」

もし仮に窃盗犯達がはったりをかけていたとしても、この場が停電している説明がつかない。
だとしたら──!
バーナビーが見当たらない犯人の謎に対して答えを出そうとした、その時、

キキィーッッ!!!

と近くを走る幹線道路の方から女性の悲鳴のような金切音が響き渡ってきた。

「な、何だ!?」

皆が騒然とする中、アニエスさんが通信越しに今の状況を教えてくれる。

『幹線道路でタンクローリーが横転!車も何台か巻き込まれてる。いつ爆発するか分からないわ。早く人命救助に向かって!』
「承知した!」

この場は警察に任せ、事故現場へ急ごうと話すスカイハイさんにヒーロー全員が頷いたのも束の間、今度は逆方向から途轍もない轟音と次いでドンと下から突き上げるような衝撃が襲ってきた。
今度は何?と揺れる足場に耐えながら、ブルーローズが誰にともなく尋ねてくる。

『そこから数キロ先、ノース地区の解体工事現場でタワークレーンが倒壊したわ!巻き込まれた市民も多数いるみたい』
「どうなってんだ、こりゃ?」

再度の救助要請にロックバイソンさんが戸惑うのも無理はない。
そんな時、僕は確かに建物の屋上で人影が動くのを見た。

「兎に角、二手に別れるぞ!俺とバニー、それからロックバイソンとファイヤーエンブレムはノース地区の人命救助に。残りは幹線道路の方へ…って、おいバニー!」
「おじさん達は先に行ってて下さい」

救助要請があった二つの地点とは別の方角へと飛び出した僕に、何だってんだ?とおじさんが首を傾げたが構わない。
そんな事よりも今は、と自分の脚力を活かして近くの高層ビルマンションに上った僕は、ヒーロースーツの耳部分に搭載された拡大カメラで周囲を見回してみた。
すると、目的の人物はすぐに見付かった。

(あそこか!)

今いる場所から数キロ先。障害物など物ともせずに、建物の屋根から屋根へと一直線で走り抜けている人間がいる。
その存在に向けてバーナビーは一足飛びに近付いた。
どうやら、高ポイントの獲得チャンスはまだあるらしい。







「やっぱり時間を稼ぐのなら、これくらいはして欲しいわ」

建物同士の屋上をパルクールの要領で走り抜けながらエンヴィーはぼやいた。

『少しやり過ぎな気も…』
「バカね。あのままでいたら私は疎か、近くにいる貴方まで捕まっていたわよ。そうなったら誰がこの計画をやり遂げるっていうの!」
『そ、それは…』

気が咎める様子のスケィスに最もな意見を述べてみる。それだけで彼は、ぐうの音も出てこない。
全く、これでも死傷者が出ないよう加減したというのに。

「それで作業の方は?」
『あ、それならあと90…いえ、70秒程で完了します』

それを聞いて、エンヴィーの口角も自然と上がる。
上々、と喜びから一人ごちたその時、背後から只ならぬ気配を感じ取った。
思わず背負っていたバレットM82を抜いて背後に構えたが、既に有効射程の中に入られていた。

「はっ!」

掛け声と共に狙撃銃が蹴り飛ばされてしまい、エンヴィーは苦虫を噛み潰したような表情で後退る。
全く、油断大敵とはよく言ったものだ。

「一人、高みの見物ですか?」

挨拶でもされているみたいな気軽さで尋ねてくる優男。確か最近売り出し中の新人ヒーローだった筈だ。

「ホンット憎たらしい存在だわ。ヒーローって」

さっさと助けを求めてる人間のとこへ行けばいいのに、犯人逮捕を優先するなんて。
私の憎々しげな表情も、雲の間から月が現れた事で夜の暗闇に浮き彫りになった事だろう。
さぞ得意気な顔にでもなっているのかと思いきや、目の前のヒーローは、まるで信じられないものでも見たかのような反応だった。

「っ!…君は!?」

瞳を見開かせて、こちらをじっと見つめて視線を逸らそうとしない彼に、エンヴィーは眉を潜める。
一体何だと言うんだ。
だって、そんな、なんで。
そう呟かれても私には身に覚えが無さすぎる。

「君が…っ、どうして、ここに…!?」
「はあ?」

エンヴィーは侮蔑も含んだ声で不機嫌に答えるのだった。


[prev / next]
[back]