子供的発想
リリアーヌは絵本を読んだ。海の戦士ソラの物語を。
そして、ある一文に彼女は心惹かれていた。
それは──、
『そうして、海の戦士ソラは【フライゴーグル】を使い、空を飛ぶことが出来ました。』
という何て事のない一文だ。
だが、確かに彼女の心を昂らせていた。
「おー!」
にんまりと上がった口角をそのままに、リリアーヌは兄の部屋に向けて走っていく。リリアーヌ的には足音を忍ばせて、周囲からはドタドタと騒がしくしながら。
─── 数十分後 ───
所変わってキッドの部屋の前。
リリアーヌと出会したキラーは、そこで彼女がキッド愛用の私物を手にしている事に気付き、首を傾げた。
「何をしてるんだ、リリアーヌ。キッドのゴーグルなんか持ち出して」
「ちょっと空とんでくる」
「そら?」
余計に謎は深まるばかりだ。
これはキッドに聞いた方が早いな、とキラーはリリアーヌを見送っていると、ちょうどそこへ寝起き姿のキッドが自室から現れた。どうやら何かを探しているようだ。
「キラー、おれのゴーグル知らねェか?」
いつもそこに身に付けている筈の物がないからか、頭を押さえながら尋ねてくるキッドに、キラーはまたも首を傾げた。
「それならさっきリリアーヌが──」
持ち出していたぞ、とキラーが口にしようとした途端、誰かの叫び声が甲板の方から聞こえてきた。
すわ、敵襲かと神経を尖らせた二人に耳に届いたのは、
「おい!リリアーヌが海に落ちたぞ!」
「なんで能力者のお前が自分から飛び込んでんだよ!?」
「あばばば、がはッ…なんで、とべないんだ…!?」
我が船唯一のお騒がせ娘が起こした揉め事案件だった。
「……」
「……」
二人が無言で顔を見合わせる事暫く、キッドとキラーは連れ立って甲板へと足を向けた。
勿論、リリアーヌに特大の雷を落とさんが為に、である。
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