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キラーの受難

遅めの朝食を食べ終え、自室で仮眠をとろうとしていたキラーの耳に、何やら甲板の方から訳の分からない奇声が聞こえてきた。
昨夜は不寝番だったので、頭がクラクラしている中で身体に響くような大音量は心底止めて欲しい。

「一体、何を──」
「うおおおおおおおおおおおおおおお」
「うりゃあああああああああああああ」

キラーが甲板に上がってすぐ目にしたのは、両端に張られたシュラウドから頂上の見張り台を目指して一心不乱に登っていく、うちの海賊船の船長とその妹の姿だった。
本当に何をしているんだ。

「あ、キラーさん。おはようございます」
「こんな朝っぱらから、あの二人は何をしているんだ?」
「競争ですよ。どっちが早くテッペンに辿り着くかの」
「いや、話が見えてこない。一体何でそんな事に…」

あの二人が突拍子もない事をするのは今に始まったことではないが、これはあまりにも突然過ぎる。切っ掛けは何だったのか。
キラーが首を傾げていると、始めから二人を目撃していた船員の一人がかいつまんで状況を説明してくれた。
事の発端はリリアーヌがキッドに対し「いつも見上げている事が気に食わない。いつか大きくなって、今度は私が見下ろしてやる」と小さな野望をぼやいた事から始まったらしい。

「お前が大きくなったらおれもそれだけ大きくなってるからな。お前がおれの背を抜く事なんて一生有り得ねェんだよ、バーカ」
「そんなの分かんねェぞ!明日にはアタシがこんだけ、大きくなってたらどうするんだ!?」
「そん時はおれもこんくらいだ」
「じゃあやっぱり、これくらい!!」
「ならおれは、こんくらいだな」
「マネすんなー!!」
「それはお前だ」

………
……


「てな感じで、お互いがシュラウドの高い方、高い方と縄を掴んでいく内、今みたいな競争へと発展しました」
「アホだろ」
「アホですね」

始まりが本当に詰まらない理由だった事にキラーは心底呆れた。
あの二人には泰然自若という言葉の意味を真に理解して欲しい。且つ、可能であればそれを実行する事も検討して欲しい。
そして、

「あ、やべっ。シュラウドのロープが切れたぞ!」
「キラー!替えってあったか?」
「よっしゃ!アタシが一番!」
「バーカ。テッペンってのはそんな低い所じゃねェよ!もっと上だ!!」
「あーっ!背伸びするのはヒキョーだぞ!!」

ワチャワチャと騒ぐ仲間達の大合唱に、キラーは「頼むから寝かせてくれ…」と遠い目になったのは言うまでもなかった。



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