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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -




おれと妹、兄ちゃんとアタシ

首に麦わら帽子を引っ提げた一人の海賊が、周りの人間を見下しながら踏ん反り返って、それでも誰一人手出しが出来なかった鼻垂れ男の横っ面を容赦なく殴り飛ばしていった姿に、リリアーヌは思わず首を傾げた。

「なあ兄ちゃん、『テンリュウビト』には手を出したらダメなんじゃなかったか?」
「ああ、それが普通だ。アイツ等イカレてやがるぜ」

先程、「天竜人に目を付けられると面倒だ」と自分の上着をリリアーヌの頭の上にすっぽりと被せたキッドだったが、結果的にはそれよりももっと面倒で面白い事が起きた。

「馬鹿さ加減ならリリィとどっこい位だろうな、ありゃ。船員の苦労が偲ばれる」
「そんな事ないぞ!アタシも『テンリュウビト』をぶっ飛ばすくらい出来る!」
「そうじゃねぇよ」

目にした初っ端から噛み付かんばかりに威嚇していたリリアーヌの事だ。後先考えずにあの鼻垂れ天竜人の頭をかぶり付いてた事だろう。
キラーが小さく笑っているのを横目に見ながら、キッドはリリアーヌから上着を取り上げた。
自分の肩に羽織り直して、これからの行動をどうしていくか頭の中で予定を組み立てていると、

「っ!」

突然リリアーヌが威嚇をする猫の様に、背中を丸めて臨戦態勢を取り出した。

「どうした、リリィ?」
「ステージの奥、何かいる」
「奥だと?」

眉を寄せながらキッドもオークション会場の舞台を窺うが、司会者と天竜人の女が騒いでるだけで先程と何の代わり映えもしない。
それでもリリアーヌはステージ奥にある緞帳の一点を見つめて視線を外さなかった。
いつも馬鹿やってふざけているリリアーヌだが、気配の探知能力に関しては野生の獣並みの鋭さを持っている。
気の所為だと一笑するのは簡単だが、これまでの旅でリリアーヌの勘に助けられた事もあるのも確かだ。
一層の警戒心を持って、妹がじっと見つめる先をキッドも睨み付けた。

「ん?」

すると、何かが緞帳の真ん中を縦に引き裂いていくのがこの目で見えた。

「巨人族?」

隙間から覗く普通の人間とは異なった大きな体に、自然とキラーの口からは驚きの声が漏れる。
周りの衛兵の反応を見るに商品が自力で逃げ出したんだろう。それにしては首や手に枷が付いていないのは謎だが。
その足元からはひょっこりと一人の老人も現れて、殺伐とした空気をお構い無しにぶった切っていくので周りの人間は唖然とするしかない。
だが、そんな老人をリリアーヌだけは穴が開くほど見つめていた。
そして、

「あそこにいる じいちゃん、すごく強い」
「あ?」

ぼそりと誰にともなく呟いたリリアーヌの言葉にキッドは顔を顰めたが、同時に老人から放たれた途轍もない覇気の力によって彼との力の差を認めるしかなかった。
これ程までの覇気の遣い手、あの見覚えのある風貌はキッドの知る限り一人しかいない。

「“冥王” シルバーズ・レイリー…!!」

威圧に当てられて全身から嫌な汗が吹き出すのを感じながらも、予期せぬ伝説の男との邂逅にキッドは口角が上がっていくのを止める事が出来なかった。
リリアーヌも鳥肌が立って気持ちが悪いのか、自分の二の腕を擦っている様子にキッドは頭をポンポンと軽く叩いてやる。

「兄ちゃん…」

目をパチパチと瞬いてこちらを見上げるリリアーヌに、キッドは素っ気なく「何だ?」と問いかけた。

「もしかして、ビビってんのか?」

心配していた筈の妹から「情けないなー」と小馬鹿にされてしまったキッドは、リリアーヌの頭に乗せていた自分の手に徐々に力を込めていった。



「イタイイタイ!!頭が割れるうぅぅ〜!!」
「自業自得だ!この馬鹿が!!」



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