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12人目の億越え超新星(ルーキー)

偉大なる航路の前半を旅し終え、新世界へと向かう為のルートを確保する為に訪れた島。それがここ、シャボンティ諸島だ。
名前の通りシャボン玉がフワフワ、フワフワ…。

「あ"ー、マジでうぜェ」

短気な性分である彼、ユースタス・キッドは地面から引っ切りなしに浮かび上がってくる球体の形をした樹脂に対してやり場のない怒りを抱いていた。
相手が樹木であるのだから、そこに苛立ちを向けても栓無いことなのだが。
そんな彼など目もくれず、リリアーヌは先程兄とキラーが話していた時に出た単語に興味を示していた。

「てんりゅう…?それ旨いのか?」

主に食い意地の方面で。

「旨いわけねぇだろ。人間だ!人間!」
「なんだ人か〜」

期待していたものとは違ってガッカリしているリリアーヌは相変わらずのポンコツ頭のようで、そんな彼女にキッドの口からは自然と溜め息が漏れる。
ッんとに、コイツは…。

「天竜人とは800年前、今の『世界政府』を作り上げた20人の王の末裔だ」

キラーが懇切丁寧に教えても妹の頭では確かな知識として残るわけもなく、現に今も首を傾げながら「せいふ?まつえい?」と端から分からなかった単語を呟いては頭に疑問符を浮かべている始末だ。

「全く、この低能振りには毎度頭が痛くなるぜ」

ぼそりとキッドは一人ごちた。
だが、そんな彼女にも嫌な顔一つせず、後ろにいたワイヤーがキラーに次いでリリアーヌの疑問とする所を答えてやる。

「世界政府とは170ヵ国が加盟する一大組織のこと。末裔は子孫。血族のことだな」
「ふーん」

けれど、彼女は話の内容についていくのも難しいらしい。
分かったような分からなかったような生返事にキッドは再び大きな溜め息を漏らした。

「やめとけやめとけ。コイツに説明しても時間の無駄だ」

心底疲れたような彼の声に、「ええー!」とリリアーヌも抗議の声を上げる。

「そんな事ないし!ちゃんと理解してるもん!」
「じゃあ今のもう一度説明してみろ」
「えっと、だから‥‥なんか偉いんだ!」

全く理解できていない妹の頭の悪さっぷりにキッドは自分の頭を抱え込んだ。
駄目だ、コイツ。

「ほれ見ろ。何も理解しちゃあいねぇ。今まで教えてやったキラーとワイヤーの貴重な時間を返してやれ!」
「兄ちゃんこそ!ホントに理解してんのか!?」
「おれはテメェとは頭の出来が違うからな」
「兄ちゃんのくせに!生意気な!」
「兄貴だからこそ、だ」

という感じで始まる兄妹喧嘩はキッド海賊団ではよく見知った光景だった。
「何をぅ!?」「何だよ?」と言い合う二人は放っておいて、残る船員達で今後の予定を確認し合う。

「この後どうする?」
「船のコーティングが済むまではここで足止めだな。確か依頼したコーティング職人の話では最低でも三日は掛かると言っていたが、それまでどうするか…」

そうキラーが顎に手を添えて考えていると、リリアーヌがそれまで喧嘩をしていた兄をスルーして「ハイ!」と優等生のように大きく挙手をした。
眼を爛々に輝かせ、どうしたのかと思いきや、

「アタシ、お腹すいた。お肉食べたい!」

と元気良く答えた彼女。
そんな姿にキッド海賊団の面々は呆れ返る者半分。苦笑を溢す者半分。その場の空気は生暖かい微妙なものになってしまった。

「お〜ま〜え〜は〜!何を言い出すかと思えば、さっき食っただろうが!!」
「あれだけじゃ足りない!もっと食ーわーせーろー!!」
「その辺の草でも食ってろ!!」
「この辺の草はまずい!ベトベトしてる!」
「食ったのかよ!?」

どうやらリリアーヌの食への執着は相当なもののようだ。
「にーくー!」と空に向かって叫んでいる大食い女の姿に、キッドは何度目かの溜め息を深く吐いた。





「おい、もしかしてあれって、『血濡れの虎』のリリアーヌか?」
「食らいついた敵の血で口を真っ赤に染めるっていう噂の!?」
「ああ。懸賞金も一味の中で二番目に高い2億3000万ベリーときたもんだ」
「それはやべぇ。目を合わせないようにしねぇとだな」
「だが、一つ疑問が残る」
「ああ。──どうして“虎”なんだ?」

周囲の人間にそんな噂をされていたとは、リリアーヌ本人も気付きもしなかった。



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