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我らが斬り込み隊長



きん、きぃん、と甲高い音を立てながら二つの白刃が煌めいている。
時には鋭い突きを繰り出し、時には流れるように刃を振るう、二人の剣士。
彼らは二振りの刀を武器として、それぞれ左右の刀で攻撃に防御に、と転用しながら相手に攻撃を見舞っていた。
相手の間合いへ自分の刃を滑り込ませるにはどうしたら良いかと思案する一方で、迫りくる相手に斬られまいと押し返していく攻防が、気付けば鍔迫り合いの形で膠着状態になった。
両者一歩も譲らない状況の中、先に仕掛けたのは白い髪の彼女──春夜の方だった。
意図的にほんの少し腕の力を抜いた瞬間、彼女は男の刀身上に二つの刀を乗せて、ガチガチと嫌な音を立てながらその刃を滑らせた。
相手の首元に向かって引き寄せられるかのように。
だが、一足早く勘付いた男が身体を大きく後ろに反らされるのが先だった。
数歩たたらを踏んで間合いを取った男に対して春夜は再び刃を構えて突っ込んでいく──のかと思いきや、徐に彼女は刀の切っ先を地面へと下ろした。
身体に入った余計な力を弛緩させて、滲み出ていた筈の殺気も霧散していく。それは目の前の男も同様だった。

「悪いな。剣の稽古に付き合ってもらって」
「良いってことさ。おれもちょうど身体が鈍ってたとこだし、いい運動になったぜ」

先程まで特訓に付き合ってくれていた男──ビスタと親しく会話しながら、春夜は馴れた手付きで刀の刃こぼれを確認していく。
光を反射してきらりと光る刀身が、彼女の横顔を白く照らした。

「にしても、大分上達してきたんじゃないか」
「ああ。だが、実戦ではまだまだだな」

刀が一つの時と、二つの時とで動きのキレが違い過ぎる、と告げる春夜はどこまでもストイックな姿勢を崩さない。
彼女が自らの刀を見つめる時、紅玉色の瞳はいつも鋭く細められ、その奥には冷たい炎を宿らせていた。

「相変わらずだな」

やれやれと肩を竦めたビスタが自分の口許に苦笑を浮かべる。
殊、剣術に関して春夜が妥協を許す筈がないと知ってはいたが、もう少し肩の力を抜いてもいいだろうに、難儀な性格だなと彼は思った。
それから一通り刃の状態を見終わった彼女は、二つの刀を背中に背負った一本の大振りの鞘に上下で一つ一つ収め、改めてビスタにお礼を告げた。

「助かったよ。お陰で自分の型が掴めそうだ」
「役に立てたようで、それは何より」

自慢の髭を手で整えながら、大したことではないと笑うビスタを見て、春夜の口角も自然と上がっていた。







「春夜さんの武器って刀一つだけなんだろ?なのに何で、二刀流の練習なんかしてるんだ?」

春夜達がいる場所から少し離れた所で、まだ入って間もない船員が、ふと思い付いた疑問を呟く。
先程の稽古を一緒に見物していた先輩隊員に聞いたつもりだったが、遠くからでも耳聡く聞きつけた春夜がその疑問に快く答えてあげた。

「私がいつも帯刀している刀──『一葉天下』は幼い頃からの愛用品なんだが、これ以外にも一応所持している刀があってな。今日はそいつらの肩慣らしにと思って、ビスタに声を掛けたんだ」

例え似たような刀だったとしても、必ず一振り毎に違いは存在する。
毎度同じ刀ばかり扱っていてはその刀に身体が慣れてしまって、いざ他の刀を持った時に感じられる違和感から対応できなくなるのだ。
そんな事に気を取られ、戦場で自分の命を危うくするようでは剣士とは言えない。
春夜は徐に背中で固定していた鞘のベルトを緩めると、先程尋ねてきた船員にも分かるように刀を外して見せてあげた。

「今手にしているのが『鬼切丸』と『蜘蛛切丸』という名の二刀一対の刀だ。それぞれ気難しい刀だから扱うのに苦労してるよ」

苦笑混じりの彼女の言葉に下っ端の船員は、へーと声を上げながら、春夜が持つ刀に関心の目を向ける。
その二刀は、大振りの一つの鞘に二つの鞘口が上下で存在するという奇妙な形の覆いに納められており、鞘を斜め掛けに背負えば左肩と右腹の部分で一刀ずつ抜刀が出来る造りとなっていた。
一見扱い辛そうな代物だが、彼女は先程の稽古でも巧みに操っているようだった。

「きっと春夜さんなら、この二刀もすぐに使いこなせてしまいますよ!!」

勢い込んで話す船員に最初は面喰らっていた春夜だが、すぐに、

「ああ。仮にも副船長の肩書きを名乗るからには、これぐらいものにしてみせるさ」

と彼女も笑い返した。
そして──、

「それに、白ひげ海賊団の斬り込み隊長とも言われてるんだ。その名誉にかけて、お前らを守ってやらないとな」

と胸を張って言って退ける。



彼女はどこまでもストイックな姿勢を崩さないのは、その起源が誰よりも仲間を大切に思うが故だからだ。
自分が誰よりも率先して危険を請け負い、晒され続ければ、その分だけ仲間が傷付くこともなくなる。
そう考えているからこそ、彼女は自分を省みようとはしなかった。
だからこそ皆、春夜の事が大切で、守ってやりたくなるのだろう。

と、そこまで考えたビスタは、これでは本末転倒だな、と密かに笑っていたのだった。





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