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味噌汁談議



味噌汁が飲みたい。

ただそれだけの欲求と、そういえば味噌はどうやって作られてるのかという興味本位から、味噌を一から作り上げる事に成功してしまった春夜。
まさかそれが、仲間内の一部の者の心にクリーンヒットする事になろうとは、彼女自身も思いもしていなかったのである。





「今日は大根のみそ汁が飲みてェなー」
「いや、ナスだろ!!」
「キャベツやら人参やらが入った野菜たっぷりのも美ん味いよなァ」

時刻は昼時。腹を空かせた船員達が今日の味噌汁の味は何かと口論し出す姿が目立ってくる。
春夜自家製の味噌も、今の所小さな味噌樽一つしかない為、味噌汁が振る舞われる頻度も週に一、二度程度と少ないので仕方がないのかもしれないが、ここまで論争が起きると逆に心配になってくる部分もあるわけで。

「お前が作った味噌よォ、隠し味になんかやべェもんでも入れてたりしてねェか?」
「そんなものは入れてない、筈なんだがなァ」

言い争う船員達を眺めながら、春夜とマルコ二人は共に首を傾げ合うのだった。


*****

ふと、春夜も海に出たら故郷の料理を食べたくなる時が出るのでは、という疑問から出来ました。
因みに管理人は味噌汁を飲むと何故か戻してしまう体質です(なじぇ?)












笑みの念押し



それは仲間達と甲板の上でたむろしていた時の事。
口慰みに煙草を吸おうとした春夜は一本、シガーケースから取り出して自分の口に咥えた。火を点ける為にと、いつも愛用しているシガーライターを懐から探ってみたが何故か見付からない。
多分、自室の机の上にでも置き忘れてきたのだろう。
しかし困った。これでは一服出来ない、と春夜は顔を顰めながら煙草を一旦ケースの中に戻そうとして、はたと気が付いた。
今目の前には適任の能力者がいるではないか。

「エース、悪いけど火をもらえるか?」
「ああ、いいぜ」

春夜の頼みをすぐに頷いて快諾したエースは、人差し指を一本立てただけで、シュボと彼女の持つ煙草に火を点けてしまった。
対象に近付きもせず、いとも簡単に点火させた彼のその手腕に、側で成り行きを見守っていた船員達は感嘆の声を上げていく。

「お前ってホント便利だよなー。こんなにすぐ火が出せるんだからよ」
「解れたロープの先端炙るのとか」
「ゴミ燃やすのとか」
「ホンット、エースがいたらマッチいらずだよなー」
「俺はマッチ扱いかよッ」

殆どが雑用仕事じゃねェか、と憤慨するエースにハハッと春夜は軽く笑った。
だが釘を刺すべき時は刺さなければならないのも事実。春夜は更に笑みを深める。

「何にしても、船上火災に巻き込まれるのは二度と御免だけどな」
「その節はすいませんでした」

軽い口調で念押ししてくる春夜に、以前サッチと起こしたいざこざを思い出したエースは直ぐ様頭を下げるのだった。


*****

いざこざについては題名『彼女は強し』を参照下さい。











白い鬼が笑う



「女性の命である髪をお切りになるなど…!」
「お前は一々喧しいぞ」

これまで一度も刃を入れてこなかった自前の髪を思い切って短髪へと変え、以前よりもスースーとする首回りに手をやりながら春夜はさめざめと泣くイゾウを鬱陶しそうに見つめた。
海賊となると決めた手前、落とし前のつもりで髪を切り落としたのだが、どうにもイゾウは納得がいかないようだった。
春夜に対して過保護のようにも思える対応だが、実はイゾウがこうも必死になるのにも訳がある。
それは、ワノ国では髪が短い女性と言えば、童女か尼僧位しか存在しないからだ。
もし短髪姿となった今の春夜がワノ国に入国でもすれば、国中の者から後ろ指を差されること必至。
しかも彼女はワノ国の五つある土地の一つ、九里の大名の娘であり、延いてはワノ国を治める将軍家の末裔でもある、歴とした姫様だ。
そんな方が断髪をするというのだから、九里の家臣団の一人でもあったイゾウにとっては心穏やかにあれる訳がない言うもの。

(髪なんぞワノ国から一歩でも外に出れば、短くても訳無いだろうに)

例え海賊という無法者の体をとっていても、根本的な部分の考えは変えられないのだろう。
悔しさから、ぐっと唇を噛むイゾウを横目で見ながら、春夜は軽く溜息を吐いた。
そんな二人の様子をじっと見守っていた船員の一人が、ふと首を傾げる。

「あれ?春夜とイゾウって知り合いだっけ?」

と。
傍から見ても馴れ馴れし過ぎる二人の関係は誰もが疑問に思う事だろう。
この問いにイゾウは即座に反応した。相手をギロっと睨み付け、物凄い勢いで詰め寄り、

「無礼な!!この方はワ」
「同郷だ」

直ぐ様にこやかな笑みを浮かべた春夜によって言葉を覆い被されてしまった。
もし言葉に意思などという力が宿っているとすれば、今イゾウの首筋には春夜の心の刃が宛てがわれている事だろう。
何故なら、笑っている筈の春夜がイゾウには射殺しそうな目付きで睨み付けられているように見えるのだから。

曰く──余計な事を言うな、と。

そんな事など露知らず、先程の船員は「へー」と呑気な声を上げている。

「それなら春夜を気遣うのも納得だな」
「気にし過ぎな気もするがな」

ハハハッと朗らかに笑い合う船員と春夜の横で、イゾウは一人、静かに生唾を飲み込んだ。


*****

イゾウに容赦がない春夜を書いてみました。
うちのイゾウはヒロインに対して過保護な面が多々あります。





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