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貴方が家族を愛すから



船に乗船している誰もが、数日後の戦に備えて仮眠や戦準備を整えている真夜中。
いつも以上に殺気立っている船内をその二人だけが、いつもと変わらない様子で酒を酌み交わしていた。

「全面戦争‥‥か」
「不服か?」
「いや、強い敵とやり合えるのは正直嬉しいさ。今からワクワクしてるよ」
「グラララッ、お前ェらしいな」

空になったニューゲートの杯に酒を注いでやりながら、春夜は今現在海軍に投獄されている仲間に対して思いを馳せる。

「ただ、ここを飛び出して行った時のエースを思い出してたんだ。始めはあんなにツンケンしてたのが、中々どうして白ひげ海賊団の仲間を大事にするようになったな、と」

脳裡を過るのは、あの時激昂していたエースの姿だ。
自分の隊の部下が仲間を刺して逃げた。親父の顔に泥を塗ったんだ、と刺されたサッチ以上に怒り狂っていた姿が今でも思い起こされる。
それ程までにエースは白ひげ海賊団という場所を大切にしていた事が春夜には喜ばしかった。

「おれに言わせりゃ、エースもお前ェも同じようなものだがな。会って早々、人の事斬り付けて来やがった奴が、今じゃうちの斬り込み隊長を張ってやがるんだからよ」
「ハハ、そう言われるとそうだな」

楽しげに笑いながら春夜は心の中で、なるほどと頷いた。
ニューゲートに指摘されて初めて気が付いたが、そもそも私とエースは境遇が似ている。
なら、この場所に留まる理由も案外同じ理由なのかもしれない、と。

「この船に乗ってニューゲートや各隊の隊長達、白ひげ海賊団の仲間達──皆と接してる内に、此処がかけ替えのない場所になってたんだろうな。エースも、私も」

ゆらりと杯の中の酒が弄ぶ手の動きに合わせて小波を立てる。
胸の辺りがほんのりと温かくなった気がしたが、決して酔いが回ってきたからという分けではないんだろう。
そんな彼女に気付いてか、威風堂々としたニューゲートの瞳が意地の悪そうな形に細められた。

「そう思えるようになったってんなら上々じゃねェか」

グラララと豪快に笑うニューゲートに、これ以上からかわれるのは御免だと春夜は手にしていた酒を一気に呷った。
鼻に抜ける芳醇な香りと透き通る静かな味に舌鼓を打ちながら、これだけはハッキリさせておこうと思う。

「なあ、ニューゲート。これだけは覚えておいてくれ。もしもアンタに何かあった時は、私はエースよりもアンタを取るからな」

それは今回の戦争の目的でもあるエースの公開処刑を止める事よりも、目の前のニューゲートの命の安全を最優先に考えるという事。
今から助けようとしている仲間より、これから命を張る筈の男の方を取るというのは本末転倒な話だが、これは彼女にとってどうしても譲れない一線だった。

「グラララ!これからの若ェもんより、この老害を取るってェのか?」
「悪いな。私の中ではもう疾っくの昔に決めていた事なんだ」

この船に乗ると決めた時から、私はどんな事があっても目の前の彼を守ると決めた。
例え大事な仲間と天秤にかけるような事が起きたとしても、それは変わることはない。

「私を薄情者だと罵るか?」
「馬鹿言うなァ。お前ェならそう言うだろうと思ってたさ」

笑って春夜の杯に酒を注ぎ足したニューゲートは、子を見守る親のような優しげな表情を浮かべながら口を開いた。

「だが、何も決め付けて行動するもんじゃねェだろ?お前ェが今回の戦いん中でエースを助けられるって確信が持てた時は、その時はエースを助けてやってくれ」

徐に自分の杯を持ち上げて、聞き分けのない子供を諭すように語りかけてきた内容は、春夜の心にすんなりと入ってくるものだった。
ニューゲートは私を含めた皆を家族のように思っている。決して私のような仲間として割り切った見方をしていない事に改めて気付かされて、何だか毒気を抜かれてしまった。

「ああ、そうだな…。今度酒を酌み交わす時は、エースも含めた白ひげ海賊団全員でドンチャン騒げればいいな」

そう言って、春夜は持っていた杯をニューゲートの杯に合わせた。
カチンと乾いた音が一つ鳴るのを合図に、お互い中の酒をぐいっと飲み干す。
舌の上を通り過ぎていった酒が先程呑んだ時に比べて、特別な味がするように感じられた。





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