善悪の基準を幸福や快楽を生み出すのに役立つかどうかという功利性に求めよという者がいる。
他人を思いやる心の大切さなど、快楽・幸福の質を追求せよという者がいる。
その考えに対し、富の公正な分配という正義の考え方が欠けていると批判する者がいる。

人々の幸福の考え方は人によって様々であり、時代によっていくらでも変節して行く。いつの時代も、あちらこちらの哲学者が小難しい幸福論をまくしたてている。別に悪いことではない、それらはきっと深い人間考察を経て考え出された、素晴らしい考え方だ。

しかし、幸福とはそんな小難しい考察がなければ理解出来ないものであったろうか。否、幸福なんてもっと単純なものだ。大切な者がいて、愛する者がいて、平和な日常がある。ただそれだけの話ではないか。なのにそこに存在する単純な幸福に、最初から持っている者はなかなか気づかない。それに気付くのは、一度でもなくしたことがある者か、最初からなかった者だ。彼らはその貴さを誰より知っていて、そして誰よりもその「単純な幸福」を切望している。


だから一度それを手に入れてしまえば、誰より戸惑い、悩み、喜び、愛し、大切にするのだろう。
















〈最大多数の最大幸福〉
















ピンポーン、と無機質な機械音が朝の万事屋に響き渡った。インターホンを鳴らす男は、もはや見飽きる程に何度も何度もその扉の前に立ち続けている長髪…解説するまでもない、桂だ。その機械音に、待ってましたと言わんばかりの早さで扉が開き既に出勤して来ている新八が出た。

「おはようございます桂さん。わざわざありがとうございます」

「いや礼には及ばない。これは俺がやりたくてやっていることだからな。これでよかったか?」

そういうと桂は、右手に下げていたスーパーの袋と左手に下げていたケーキ屋の箱を新八に差し出す。ありがとうございます、ともう一度礼を言いながら新八がそれらを受け取った。

「どうぞあがって下さい」

新八は袋と箱を丁寧に持ちながら、にこやかに笑ってそう言う。お言葉に甘え、桂は万事屋に足を踏み入れた。

本日、10月10日。
桂の愛する銀時の誕生日だ。


「銀時は?」

「まだグータラ寝てますよ。いつもならたたき起こすところですけど、今日は寝ててもらった方が都合がいいですし」

「そうか、じゃあちょっと起きない程度におはようのキスを…」

「あんた絶対キスだけじゃ済まないでしょーが。銀さん起きるんでこっち手伝って下さい」

このやりとりが示す通り、もはやすっかり子供達公認の二人の仲。新八は桂と銀時の関係を知るまで、男同士の恋愛というものを存在自体意識したことがなかった。普通の男子ならば当たり前のことだろう、ホモでもあるまいし。しかし銀時が桂とそういう関係だと知った時、不思議と嫌悪感は湧かず、至って平和的に受け入れられたような気がする。むしろ、「ああ、やっぱりな」と納得する気持ちが強かった。それに新八としては相手が男だろうとテロリストだろうと指名手配犯だろうと変態だろうと、銀時が選んだのならそれでいい。銀時が幸せならそれで十分だ。




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