「あ、」
「ん?」
ぼーっと街中を歩いていると、なぜだか視線が右端によった。
疑問に思うよりも前に、俺の目は奴をとらえていた。
すると、向こうも気がついたらしく、こちらを向いた。
「……銀時くんじゃないか」
「気色わりぃからくんづけするな」
銀時がいたのはスーパーの目の前だったので、時間的に考えると夕飯の買い出しだろう。
「今日の夕食はなんなんだ、銀時」
「てめぇうちにあがりこむ気か」
右手でしっしっと払う仕草をする銀時を無視し、俺は奴についていくことにした。
「…おい、ついてくんな」
「今日の夕飯を作ってやるといっても?」
心底うざそうな顔をして俺に背をむけたが、ご機嫌とりにそういってやればぴくっと耳が動いたのが見えた。よーし、あと一押し!
「イチゴでパフェも作ってやろう、自腹で」
「…!」
くるっとこちらを振り返った銀時の瞳は、きらりと輝いていた。
***
「ヅラぁ、お前なに作れんの」
「戦争中にはあれだけ飯を作ってやったのに貴様は何も覚えとらんのか」
「小麦粉のカスとか芋の砕けたのとか、あんなん食い物じゃねー」
「それをなんとか食い物にしてやったんだ、凄腕のシェフだろ」
いつもの言い合いをしながら店内をカートをおしてあるく。
銀時は横で腕を組んでいろいろ物色しているようだ。
「何を食べたい?」
「んー…お前が得意なものでいい」
お高い牛肉を物色中の銀時の手を軽くはたき、財政の破綻を阻止する。
「全く、それが一番困るんだぞ」
「困るほどレパートリーあるのかよ」
いちいちあげ足をとるのは奴の性格なので気にしないが、その発言はいただけない。
「…見てろよ銀時、俺の最高傑作をつくりあげてやる」
「ほー、まあ期待せずに待ってるぜ」
ニヤニヤとこちらを見る銀時に鼻をならして、俺は買い物を続けた。
そのうちに奴はどこかに消えてしまい、俺がレジに並ぼうかと考えだした頃、山のようにお菓子を抱えてきて、最低限に節約した買い物かごをお菓子で埋め尽くした。
「お前な…」
「全部ヅラのおごりな」
呆れてため息をはく俺を気にもせず、奴は上機嫌でスーパーの入り口へとでて行った。
「…俺はサイフか」
今更ながら自覚して落胆するも、また明日には忘れてしまうだろう。
なんだか今日は銀時の機嫌もいいようで、俺を邪険に扱ったりしない。
不思議なこともあるものだと思いながら精算を済ませてスーパーをでる。ちなみに、今日はエコバック持ってないから金とられたチクショー。銀時のサイフから2円くすねておこう。
「おい銀時、終わったぞ」
自動ドアが開くと、すぐ脇に銀時が座り込んでいるのが見えて声をかける。
ぼうっと遠くを見つめている銀時の横顔を、今にも沈まんとする夕陽がきらりと照らしていた。
一瞬はっとして振り向いた奴は、すぐにいつもの腑抜けた顔に戻ってしまった。
「遅ぇよ、バカ」
普段と比べるといくぶんかやわらかなほほえみに、胸が締め付けられる思いがした。(たぶんそれは純粋に奴を好きだと再認識できたから)
「…もう日も暮れるな」
「なにジジくせぇこと考えてんだよ」
腕を伸ばして大きな伸びをした銀時が歩きだした。大股でずんずん進む奴は容赦という言葉を知らない。俺は、太陽を少しかえり見て、小走りで銀時に続いた。
「なあ、最近どうだよテロリストの情勢は」
「誰がテロリストだ。俺は高杉のようにバカな真似はしない」
「俺たちを使ってデカイ犬ころの大使館爆破しようとしたのどこのどいつだ」
「過去はふりかえらない男なんでな」
「てめぇが言ってもかっこよくもなんともねーんだよ!」
突拍子もない世間話の次に、あー、だとか、うー、だとかぶつぶつ呟く銀時を不審に思っていると、ぐいっと左腕が引っ張られる感覚がした。
どうやら銀時がレジ袋の持ち手を引っ張ったらしい。
「…俺が持ってやる」
「俺はそこまでひ弱じゃないぞ」
「俺が持ちたいって言ってんだから素直に渡せよバカツラ」
銀時は力づくでレジ袋を奪い、俺とは反対側の手に持ちかえた。
「…銀時?」
「ふん…」
銀時の右手が俺の左腕をかすめ、離れたと思ったら左の小指にそっと触れた。不自然に腕を揺らす奴の意図に気付いて、それとなくこちらから指を絡ませた。
「手、つないでも?」
「…今日だけ特別だ」
むっつりとそっぽを向いた銀時には見えないようにくすっと笑って、夕陽よりも綺麗に染まった奴の横顔を盗み見た。
夕暮れの憧れ
(世界は赤で染まっているのに、お前は何時だって自分の色に染まっている)(そしてそれが美しい)
***
ランさんより開設記念に頂きました…!!本人曰わく私が興奮するであろう要素を存分に詰め込んだ、とのことらしいですがお陰様で大興奮でした。ヅラ銀日常編っていいですね…!2円くすねようとするヅラがとてもツボだったよ!
ランさん、本当に有り難う御座いました!!