長く付き合うとドキドキとか新鮮味とか、その他諸々“恋してる”って感覚がなくなるとは聞いていたが、最近つくづくそれを感じている。じゃがいもの皮を剥きながら、恋人である総悟のことをぼうっと考えてみた。
中学2年の頃から付き合い始めて、気がつけばもう24歳。わたしにとっては初恋継続中なわけたが、果たしてわたしは今“恋してる”のだろうか。付き合って10年、ダラダラと今日までやってきた。3年くらい前に結婚を意識した時期もあったが特に何もなく時間は過ぎて。このままでいいのかなって何度も何度も考えたけど、なぜか口にできなくて、毎日仕事が終わってただ一緒にいるだけ。今日の総悟の誕生日についてだって、1週間くらい前に一緒にわたしの家で夕飯を食べながら「そうだ、来週の総悟の誕生日どうする?」「別に普通でいいでさァ」程度の話のみ。まあ仕事をきっかり定時で切り上げて総悟の家でちょっとしたご馳走を作るくらいの可愛らしい愛情はあるけれど。

それにしてもハンバーグって子供っぽいかな。




「ただいま」
「おかえりー。ほら、ちょっとご馳走」
「ケーキ買ってきたぜ。お前の好きなチョコレート」
「やったね!」

9時過ぎ、仕事から帰宅した総悟を出迎えて、ご飯を食べることにした。出迎えたことこそ時々あるかないかのことではあるが、こうしてご飯を食べるのはいつも通り。
一緒にいるのが嫌なわけじゃない。楽しいし、落ち着くけど。でもこの微かに胸の奥にあるもやもやは何なのだろう。わたしは何を求めてるの?現実からの脱却?でも、どうやって?


「おい」
「……」
「おい」
「……」
「聞けィメス豚マヨネーズぶっかけるぞ」
「…っぁあそれはやめてくださいまじで」
「何考えてんでィ食事中に」
「べ、べつに」
「……」

なぜか今度は総悟が黙った。あれ、気まずい感じ?
こんな雰囲気久しぶりだ。むかーし高校の時、わたしが土方くんと隣の席でよく話していたら総悟が嫉妬してしばらく気まずい時期があったりしたけど、何となく似ているような似てないような。でも今はそんなことしてないし。それにしても、昔は甘酸っぱい青春していたんだなあ、とふと思う。テーブルの向かいに座る視線の定まらない総悟を見ながら、昔のことを思い出してみた。毎日学校では一緒にいて、総悟が部活ない日は一緒に帰ったり、デートしたり。手を繋いで、キスして、体を重ねて。見つめ合ってちょっと照れながら笑ったり、辛いときに抱きしめあったり。
思い返せばたくさんある。なのに全部昔のこと。最近?これといったことをした記憶がない。いつからこんなふうになってしまったんだろう。わたしは今、好きって、愛してるって、“恋してる”って、胸を張っていえるのだろうか。


「これ、」
「…え?」
「いいから黙って受け取れィ」

総悟がグーに握った自分の右手を差し出してきた。この中に何かあるのだろうか。わたしは総悟の手の下に自分の手を開いて差し出した。

「待たせて申し訳ありやせん」

──ぽとり

わたしの開いた掌の上に、小さな光り輝くリングが落ちてきた。
これ、は


「そ、ご」
「10年間、ずっと待たせてほんとにすいやせん。今更だけど…俺と結婚してください」


言葉が、うまく出ない。何か言いたいのに、ただ口がぱくぱくと開くだけで、頭が真っ白。どうしよう。

「っそ、う、ご」
「何でィそんなにぱくぱくして。この状況で金魚の物まねかメス豚」
「おいそれがプロポーズした後のセリフか」

あ、出た。

「ねえ、これ…」
「そのまんまでさァ。ずいぶん待たせちやいましたね」
「……いいの」

涙が出てきた。ひとつ、またひとつとぽろぽろと溢れる。ちゃんと愛していたのだ、わたしは。好きだったし、愛していたし、今もわたしはちゃんと“恋してる”。10年前からずっと変わらず。

「久しぶりにちゅーでもしようかねィ」
「ちゅーって予告するもんじゃないし」
「久しぶりすぎてやり方忘れたんでさァ」
「確かに」

ほかの人からしたら信じられないかもしれないけど、でもわたしは気にしない。
久しぶりに、総悟を真っすぐと見つめる。薄い唇がそっと近づいてきて、わたしは目を閉じた。暖かい感触。久しぶりにギュッと抱きしめられたわたしの体。わたしもそっと総悟の背中に腕をまわした。絡み付く舌がとても愛おしい。わたしはちゃんと総悟を愛してる。これからもずっと、ずっと、一生“恋してる”のだ。





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