4月の夜はまだまだ寒い。日中は20度を越えるが夜になると一桁まで下がるからコートは欠かせない。今日はちょうど満月で、これがロマンチックなレストランならよかったものの、生憎今は残業で疲れ果ててくたくたになりながら帰っている途中である。重い足を動かし漸くマンションにたどり着き、オートロックの自動ドアを開けた。エレベーターに乗りやっと一息。両親に女の子は色々と危ないからと言われ無理矢理選ばされた新築のマンション。こんな家賃の高い物件を借りるならもっとボロ家を借りてその分服を買いたかった。まあ服を買いに行く暇なんてないけれど。

玄関のドアを開けると僅かにラベンダーの匂いが薫った。お風呂にお湯を溜めてベッドに倒れ込む。明日はブン太の誕生日。空けといて、とだけ言われたため何をするかはわからない。彼の誕生日なのだからわたしがプレゼンしたいのに。お風呂から上がったらネイルをしよう。それからかばんに誕生日プレゼンに買ったネックレスを入れて、そしてよく寝よう。明日は早起きだ。


──ピンポーン

その時玄関のインターホンが鳴った。誰?こんな時間に…。緩めていたブラウスのボタンを再び閉じて画面を覗き込む。そこには、

「ブン太!」

何でブン太が?急いで玄関のロックを外し扉を開けると、そこには恐らく会社帰りであろうスーツを着たブン太。

「実はさ、明日急に仕事入っちまって…ごめん。驚いた?」
「びっくりしたよ…もう。中入って?」

入って、なんて言う前にブン太はもう靴を脱いでいた。何度も来たことのあるわたしの家。同じようにわたしもブン太の家に何度も行った。

「仕事か…残念だね。じゃあ、これ早いけど…って、あ」
「そ、もう日付変わってんの」
「おめでとう、ブン太。これプレゼント」
「サンキュ!…ほんとごめんな」
「いいよ別に。もう学生じゃないんだししょうがないじゃん。それにブン太の誕生日でしょ」
「だって…最近全然会えなかったし」

ブン太は腕を伸ばしてわたしの体を包み込んだ。香水の香りに少しタバコの匂いが混ざってる。お互いスーツのままだから何だかちょっといけないことをしているような気になるなあ。

「中学の時から変わらない、愛してる」
「わたしも」

さらにきつく、ギュッと抱きしめる。そうしてわたし達はベッドに沈んだ。





110419
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テーマ「人外ファンタジー」
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