「お疲れ様でしたー!」


1日がかりの撮影がようやく終わったのは夜8時。今から準備をして車をとばせば9時には帰れるだろう。スタジオにかかる時計を見て瞬時に逆算した。お疲れ様ッス!とモデル用の笑顔を振りまき控室へと急ぐ。途中最近よく撮影が一緒になる女の子に黄瀬くん、と腕を掴まれたがまたよろしくお願いします、とあしらう。それでも離さずこのあと暇?なんて言ってくるその子に、可愛い彼女が待ってるんスよ〜と言えばするりと解放された。表情は見ていないがもう絡まれることはないだろう。万が一何かされたとしてもどうでもいい。だいたいモデルだからといって彼女がいたらダメというルールはない。それに彼女のためならいつでもこの職を捨てる覚悟は、とっくの昔にできているのだから。







すぐに私服に着替えて簡単に挨拶を済ませたら車に乗り込んだ。安全運転を心がけながら裏道を選んで進む。向かうのは勿論彼女の家。

もらった合鍵をまわして慣れ親しんだ家の扉を開ける、と同時に聞こえてくるぱたぱたとスリッパを履いて走る音。次いで可愛い黄色のエプロンを身につけた彼女が笑顔でやってくる。俺の大好きな、俺の彼女。


「おかえりっ!涼太!」
「ただいまッス。いい子に待ってた?」
「うんっ」


くしゃりと微笑んで腰のあたりに抱きつく彼女の背中に片手をまわし、もく片方の手で頭を撫でた。俺は昔から犬みたいだと言われてきたが、俺から言わせれば彼女のほうが十分犬っぽい。涼太、涼太と言って笑顔で俺の1歩あとをついてくる彼女に立ち止まって歩幅を合わせる。そうするとさっきみたいなくしゃりとした笑顔を見せるのだ。……可愛い。
彼女に対して甘い自覚は十分あるが、それは可愛いからしょうがない、しょうがないと思う。目にいれても痛くないとはこのことだ。


「夕飯、今できたから!あったかいよ!」
「待っててくれたんスか?じゃー一緒に食べよっか」
「うん!」


自然な仕草で手を引かれる。彼女の暖かくて小さな手が、仕事帰りの俺の冷たい指先を暖める。リビングに入ると俺の大好きな彼女手作りのハンバーグをはじめとした豪勢な食事がテーブルを彩っていた。食べよ?と首を傾げて微笑む彼女。もーーー可愛くて仕方ないッス!


「俺は夕飯より今……」
「あーーお腹空いたな!食べよ、涼太!ほら!」


真っ赤になって背中を押して座るのを促す彼女を見て思わずS心が疼いた。それは、期待していたってことでいいんスよね?


「じゃあいただきます」
「うん、いただきます」


たくさん食べてね、今日はおかわりあるからという彼女の言葉に、全て食べなくてはと胸に誓った。食べて力をつけなくては、と打算的なことを考える。夜はまだまだ長いのだから。




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