もぐもぐ。もぐもぐ。無心で弁当のおかずを口に運んではろくに噛まず飲み込んみ、永遠にその繰り返し。目の前にはそんなわたしを見ている人がいて、しかもそれはわたしが大好きな人だったとして、しかもその人はわたしの彼氏だったとしても関係ない。今のわたしはただひたすらお弁当を食べるだけである。

「ちゃんと噛まないと体に悪いんだぞー」
「お腹空いてるからいいの」

そんなわたしを見続ける文貴を無視して再び弁当を食べるのを再開する。文貴は言っても無駄だとわかったのか、わたしの肩越しにどこかを見つめた。それに気づきたくなくて、弁当だけを見つけてご飯をかきこんだ。もぐもぐ。もぐもぐ。

文貴と付き合ってもう3年だが、印象はだいぶ変わった。普段のどんな人にでも振り撒く笑顔は所詮は外面で、本当は酷く淡泊な人だった。付き合えば付き合うほどわたしになんか興味がないかのように接した。一緒に帰っても、デートをしても、文貴の家でセックスしても、いつも淡泊で。会話のない空間に心地よさなんか微塵もなくて、息苦しさしかなかった。まるで倦怠期のように、会話もなくダラダラと、ただ一緒にいるだけ。わたしがそれをよしとしたのは文貴を愛しているからで、ただ愛しているから文貴の全てを許せるからだ。本当なら一緒に楽しく帰りたいしラブラブなデートもしたいし、熱いキスもセックスもしたい。けどそんなことを言ったら文貴はわたしのもとを離れていってしまうかもしれない。わたしは文貴を愛しているから、何も言わない。文貴がいるだけでほかは何も望まないから。文貴がわたしの全てだからいなくなってしまうなんて考えられない。

「あ、花井ー!今日委員会の仕事あるから部活ちょっと遅れる!」
「おぉ、わかった」

わたし達が向かい合って座っていた席の横を花井が通ったとき、文貴は得意の外面用笑顔で花井に話しかけた。さっきのわたし達の会話だって、近くにクラスメイトが来たから仲よさ気を装ったにすぎない。文貴の笑顔は決してわたしに向けられることはないのだ。チクチクという胸の痛みを無視してそんな考えを頭の隅に追いやる。逆に言えば、こんな文貴を見られるのはわたしだけなのだ。それがどれだけ幸せなのか。わたしだけの文貴。わたししか知らない文貴。愛してる。狂おしいくらい愛してる。文貴が可笑しいとか異常だとか、そんな判断はもうわたしにはつかない。狂ってるのはわたしのほうなのだから。







文貴の部活が終わって時間はもう9時過ぎ、空は真っ暗だった。わたしがこんな時間まで文貴を待っているのを見たほかの部員は心配半分、冷やかし半分でわたし達に声をかけた。文貴はそれに少し焦って照れたような対応をする。わたしもそうしてみた。二人して馬鹿みたいだ。

「じゃ、じゃあ俺たち帰るから!」
「おお、またなー!」
「ラブラブしすぎて帰り遅くなんなよ!」

気を遣ってくれたみんなを背にわたし達は自転車に乗った。背を向けたら最後、無言。

自転車のペダルを漕ぎ続けて何十分も経った時だった。

「そんな物欲しそうな顔をしたって何もあげないよ」
「……」
「俺は変わらないから」
「…知ってるよ」
「随分変わってるよね、こんな俺を愛して。とっくに見切りをつけたっていいのに」
「わたしは…文貴を愛してるから」


それっきりだった。文貴はわたしを家まで送って、そのまま帰った。
もし、わたしが文貴を愛さなくなったら文貴はどうなるのだろう?泣いて縋ってくれる?それともいつものように表情のない顔でそう、とでも言うのだろうか。わからないけれど、わたしが文貴を愛している間はそんなことを考えても無駄なのである。





110319
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