風邪をひいた。熱がある、と思うけど怖くて測ってない。なんとなくだるいなあと感じたのが昼過ぎ。自覚するとその症状はどんどん悪化していった。とりあえず寝よう。熱が下がらないと何もできない。お仕事中の真ちゃんに“少し体調を崩したので夕飯は食べてきてください”とメールをした。しばらく待ってみたが、返事は帰ってこない。忙しいからしょうがないもん。そう言い聞かせてベッドの中に潜り込む。熱いけど、寒い。わけわかんない。風邪引くのなんて久しぶりだからどうすればいいか忘れちゃった。寝れば下がるかな、そう思って無理矢理目を閉じると、気づいたら夢の中。







ドタドタと廊下を走る音が聞こえた気がした。次いで、バンッと扉の開く音。目を開けると部屋の中は真っ暗だ。あれ、わたしどれくらい寝ていたんだろう。少しだけ寝るつもりだったのにもうこんな時間?まだ重たい体をゆっくりと持ち上げようとした時、寝室の扉が開いた。


「大丈夫なのか?!熱は今何度あるんだ?薬は?病院は行ったのか?」


リビングの光と共に入ってきたのは真ちゃん。珍しく息を切らして、似合わないスーパーの袋を片手にぶら下げている。


「ううん…」
「だからお前はだめなのだよ!ほら、これを飲め」


そう言ってスーパーの袋から薬と水を取り出して、差し出される。ゴクリとそれを飲み干せば、真ちゃんは一安心したかのように小さくため息をついた。


「ちょっと待っていろ、今夕飯を…」
「いい、行かないで」
「そんなわけにもいかないだろう。何か食べないと、」
「さびしいから…お願い」
「……しょうがないのだよ」


寝室から出ようとした真ちゃんの腕を掴んだ。真ちゃんのしょうがないのだよ、って好き。困らせてるわけだけど。でも、そう言ってわたしのことを選んでくれてるって実感するから。ごめんね真ちゃん。今日だけは、今だけはたくさん甘えたい。


「ねぇ真ちゃん、ちゅーして」
「移るからだめだ」
「してくれなきゃ治らない」
「治ったらしてやる」
「…ケチ」


寝ろ、と無理矢理瞼を閉じさせられた。暖かくて、大きくて、少しゴツゴツしている真ちゃんの手。握っている左手の指に、もうテーピングは巻かれていない。あの時から、もう何年経ったのだろう。鮮明に思い出せるのに、もう昔のような話。バスケをしている真ちゃんも好きだけど、今の真ちゃんも好き。ううん、どんな真ちゃんでも好きだよ。あれほど寝たというのに、なんだかまた眠たくなってきた。最後に目に入ったのは、優しく微笑む真ちゃんの顔。








目が覚めた。


「真ちゃん…」
「起きたのか?」


わたしの右手には真ちゃんの右手が握られていた。ずっと隣にいてくれたの?なんて考えてたら真ちゃんの顔がぐんって近づいてきて、わたしのおでこに真ちゃんのおでこがピタリとくっついた。


「少しは下がったようだな」
「真ちゃん…!」
「なんだ?お腹空いたか?」


無自覚って怖い!きっと今のわたしの顔は真っ赤だ。恥ずかしくて真ちゃんの首に巻きつく。なんだ、と言いながらも背中をぽんぽんと叩いてくれる真ちゃん。好き。


「桃を剥いたのだが食べれるか?」
「真ちゃん食べさせてくれる?」
「…今日だけなのだよ」


風邪をひいてよかったかもしれない。こんなに甘えられるのはわたしが体調を崩しているからだろう。真ちゃんから離れて、ベッドの横の机に置いてあった桃に楊枝を刺し、口元に持ってこられたので、ぱくりと食べた。美味しい。甘くて、冷たくて、あと真ちゃんが食べさせてくれたから。


「なんか元気出た!」
「全部食べれるか?」
「真ちゃんがあーんしてくれるなら」
「まったく…」


ため息をついても今日の真ちゃんはなんでもやってくれる。しあわせだな、嬉しいな。体はつらいけど、こんなに甘えられるならもう少し風邪をひいたままでいたいと思う。




121007
title:リラン

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