放課後、ひとり真ちゃんの自主練が終わるのを待つ。すっかり慣れた光景のようで、体育館の外に座るわたしを見て先輩達が声をかけてくれる。わたしもお疲れ様です、と返したが高尾くんにだけは睨まれた。どう頑張っても高尾くんとは仲良くなれそうにない。
黙々とシュートを打つ真ちゃんは試合の時と同様物凄くかっこいい。勿論試合の時はまた少し違うけれど、バスケに真剣な真ちゃんは真っ直ぐでかっこ良くて、好き。初めて会った時は変な人だし怖いし、なんて思っていたのにな。
「おい、いつまでそこにいるつもりだ」
ふあ、と意識が遠のいていたのを理解する。目を開けて声のもとを辿り見上げると、そこには着替えも終えて帰る準備のできた真ちゃんがいた。一年も下半期となり、空はもう暗くなっていた。帰るぞ、と真ちゃんが言ってわたしの先を歩く。はあい!と返事をしてわたしは真ちゃんのもとへと走った。
「帰ろう」
そう言ってわたしは真ちゃんの手をとった。背の高い真ちゃんと手を繋ぐのはちょっぴりどころか結構大変なことだ。休日のデートならば高いヒールの靴を履いて頑張るけれど、制服の時はそうもいかない。それでも真ちゃんはわたしの指に絡ませて、しっかりと握ってくれる。ちょっと前まではぎこちなかったのに今では慣れた手つきでこうして繋いでくれる。真ちゃんから手を差し出してくれることは少ないけれど、それでも昔に比べたら大きな進歩だ。思い出したら嬉しくてなんだかにやけてしまいそう。わたしの歩幅にあわせて歩いてくれるのも最近になってからだけど、不器用な真ちゃんがわたしのために考えて覚えてくれたんだなって考えただけで幸せになる。とてもじゃないけど女の子の扱いに慣れているとは言えない、けれど、慣れていたらきっとその過程に嫉妬しちゃうからわたしにはこれでいい。これが、わたしの幸せ。
今日ね、科学の授業の時先生に当てられたの、でもね、真ちゃんに教えてもらっていたから答えられたんだよ。先生びっくりしてた。真ちゃんのおかげだね。そんな風に言うと、お前が頑張ったからだろうって言われた。無自覚天然は怖いなあ。付き合ってそれなりに経つけれど、未だに緊張してしまうふたりきりの帰り道。どことなくぎこちなくて、でも幸せなこの時間。ううん、真ちゃんのおかげだよって言ったらため息をつかれた。でも、少し頬を赤らめたのをわたしは知ってる。ああ、これだから。いつでも100%、それ以上真ちゃんのことを大好きだと思うのに、もっともっと好きになる。もっともっと愛しくなるの。
「真ちゃん、送ってくれてありがとう。また明日ね」
「もう暗くて危ないだろう。送る」
「いいの、真ちゃん明日も朝練習でしょ?大丈夫だよ」
「…気をつけるのだよ」
歩いている時は長いのに、ついてしまったらあっというまである。駅に着いてしまい、真ちゃんとのお別れの時間。勿論、明日も会えるけど。また明日ね、と言いながらも繋いだ手が離せない。ふたりで黙って駅の前に立っていた。わたしが乗る電車がホームに止まり、そして発車する。
「遅くなるから、次の電車には乗るのだよ」
「…うん。真ちゃん、また明日ね」
「ああ、また明日」
手を離した。ほら、もうこんなにも真ちゃんの手のぬくもりが恋しくなる。また明日、そう約束できる幸せを感じて、わたしは改札をくぐった。
120925
♪君は自転車 私は電車で帰宅/℃-ute
やえぴへ