「来週の日曜日休みになった」

そう連絡をもらったのは丁度一週間前のことだ。インターハイを目前にして益々厳しくなる練習のなか、折角の貴重なオフをわたしのために使ってくれるのは嬉しい半分申し訳なさもあった。しかしまだまだ子どものわたしは休んでくださいとは言えなくて、浮かれてスキップしながらバイトから帰ってきたことを覚えてる。

次の日、お昼過ぎにバイトが終わり貰ったばかりの給料片手に買い物にやってきた。このブラウス可愛いな。先輩は可愛いって思ってくれるかな。先輩は背が高いからいつもキスをする時に気を使わせてしまうから、ちょっと頑張って高いヒールのパンプスを買ってもいいな。この大好きなブランドの新色のリップも可愛い。つけたらキスしたいって思ってくれるかな。先輩のことを考えていたら買い物も倍楽しくなる。ちなみに先輩と行く買い物のほうがもっと楽しいけど、意見を求めても「いいんじゃね?」としか言ってくれないから、いつも途中でわたしが拗ねてしまって先輩があたふたしながら宥めてくれる。でもね、本当は先輩があまりこういう所得意じゃないって知ってるから、わざと聞いてるんだ。だって赤くなる先輩可愛いんだもの。そういう表情をしてくれるってことは似合ってると思っていいんでしょう?




お風呂に綺麗なお湯を貯めて、バスタブに浸かる。大好きな入浴剤を入れると明日に向けてテンションが上がるのだ。先週の買い物で買った新しいシャンプーのおかげでなんとなく髪質がよくなった気がする。先輩のために毎日手入れしている髪の毛は友達に自慢したくなるくらいサラサラになった。今夜もちゃんとトリートメントして寝ないと。そうだ、髪型はどうしようかな。と剃刀で足の毛を剃りながら考える。最近ツインテールにはまってるけど少し子どもっぽい?巻くだけはいつもと同じで味気ないしどうしようかな。

お風呂から上がり鏡の前で念入りに化粧水をはたき、いつも使っているものよりすこし高いパックをつける。この一週間規則正しい生活をしたおかげで肌の調子も良好だ。明日の化粧の乗りは最高に違いない。新色のリップとチークをつけて、薄づきだけど可愛いなって思ってもらえる化粧をしよう。いろいろな雑誌を買って研究したから大丈夫なはず。パックを顔全体に貼り終えて、枕元に置いてある写真立てに目を向けた。今年の春、わたしが受験を終えてから初めてのデートのときに撮った写真だ。先輩は恥ずかしがってあまりプリクラも撮ってくれないし、残っている写真はあまり多くない。そういえば写真なんてこの時以降撮っていないかもしれない。なかなか会えないのはわかっていたけど、電話する時間すらとれないのはやっぱりちょっと辛い。海常を受験すればよかったかなって思ったこともたくさんあったけど、それでも先輩はそんなことを望まないし、きっと自分のやりたいことをやれって言うだろうから、この決断は間違いなかったはずだ。

その時、ベッドの上に放り投げてあったiPhoneが鳴った。大好きな、彼から。


「っ!先輩!」
『なんだよ、そんなでかい声で。びっくりしただろ…』
「だって、先輩から電話なんて久しぶりだから嬉しくて!あっ別にそういう意味で言ったんじゃないですよ!」
『あー…ったくお前はほんと…明日気をつけてこいよ?』
「はい!先輩も気をつけて来てくださいね?何かあったらわたし死んじゃいますから!あっなんか考えたら心配になってきたわたし明日先輩のこと迎えに」
『考え過ぎだ!大丈夫だから、おまえも早く寝るんだぞ』
「はーい!先輩もおやすみなさい。大好きです!」
『…っ!おやすみ!寝ろ!』

もう一度はーい、と返事をして電話を切った。切られたあとのツーツーという無機質な音が嫌い。そう言ってから先輩はわたしが電話を切るのを待ってくれるようになった。優しくてかっこよくて、たまに可愛い先輩。もう繋がってないiPhoneを思わず愛おしく見つめてしまうのは、待ち受けが先輩とのプリクラだからだ。明日、久しぶりに一緒にプリクラとらせてもらおう。嫌がっても連れてってやる!それを待ち受けにするだけで、わたしは会えなくてもより一層先輩のことを愛することができるから。





120906
♪会いたい 会いたい 会いたいな/℃-ute
title:リラン





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