放課後、友達3人と学校近くの公園でおしゃべりをしていたら、もう夜になっていた。そのまま近くのファミレスへと雪崩れ込みダラダラ話していたらもう9時近く。その時友達Aが思い出したように言ったのだ。「野球部の練習終わるのもうすぐじゃない?」と。すると友達BとCもニヤニヤしながら「そうだねぇ」なんてわざとらしく言うもんだから、何だかんだで学校に戻ってきてしまった。辺りはすでに暗いが、もう帰ったわけじゃないよね?本当ならメールしたいところだが、ここまできたら驚かせたいのでじっと我慢することにした。携帯をいじったり、ぼーっとしていると、段々騒がしい声が聞こえてきた。大勢の騒ぎ声と自転車を漕ぐ音。野球部だ。


「あずさ「あれ?花井のカノジョじゃねー?」
「おい田島!道路飛び出すな‥って」
「あれー?花井お出迎えかよーズリーな!」
「やるなー花井」
「お邪魔しちゃ悪いから俺らは先行くなー!」
「あいつらお互い真っ赤だけど大丈夫なのか」


わたしに被せた田島くんからはじまり、上から梓、水谷、泉くん、栄口くんである。そして阿部、余計なことを言うな。言われるまでもなく梓の顔は真っ赤で、鏡を見るまでもなくわたしの顔も真っ赤のはずだった。自分で待ってたくせに。気を利かせてニヤニヤした視線を向けながら先に帰る野球部のみんなを見送り、改めて梓と向き合う。恥かしい。


「ご、ごめんね。いきなり待ってて‥」
「いや、いいんだけどさ。この時間に女ひとりは危ねえだろ」
「さっきまで友達のファミレスにいたの。それで、もう少しで梓部活終わるかな‥って」
「そっか‥ありがとな。送るから帰るぞ」
「うん」


梓が自転車をおりてわたしの隣に並ぶ。さりげなく車道側に立つ彼は意外と紳士だ。付き合い始めてまだ月は浅く、数える程ちゃんとしたデートもしてないし、お互いまだまだぎこちないけれど、それでもわたしは梓の隣が好きだった。


「こんな時間まで毎日練習してるんだね」
「疲れっけどな、もう夏大前だし、それに練習は楽しいから意外とできるもんだよ」
「それなのにいつも夜メールくれてありがとうね」
「いや、それは‥‥俺が好きでやってることだし‥」


言い終わったあと、梓の顔が赤くなり、つられてわたしも赤くなった、気がした。口下手なのにたまにこういう恥かしいことを言って、おまけに自分であとから気づいてふたりで黙り込むのはいつものことである。でも、こうして言葉にしてくれるのはすごく嬉しいし安心できる。しないからといって不安になるわけではないけれど。


「ごめんな、ちゃんと時間とれなくて」
「ううん、忙しいのはわかってたし、こうやって話せるだけでわたしは嬉しいから」
「そっか‥。俺、ぜってー夏勝つから」
「うん、応援してる」
「おお。今日はほんとありがとな。元気出た」
「う、うん。おやすみなさい」
「おやすみ」


梓にマンションの前まで送ってもらい、梓の背中が見えなくなるまで手を振った。わたしがそうしているのを知っているから、梓は何度も振り返って、同じように手を振る。そして家に着いて自室に戻ると“さっさと家入れ!”とメールが来ているのはいつものことである。





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